し尿浄化槽の普及について

岩手県大船渡保健所
小松原 正


 かつてし尿浄化槽は下水道が普及するまでの暫定的なものとして位置づけられていたわけでありますが、財政難の今日、下水道の普及の遅れから、下水道の代替としてその立場は変わってきております。従って、生活水準が向上した今日、し尿浄化槽の設置を願う人は今後も増大していくでありましょう。しかしまた、都市下水路の汚染の進行さらには宅地の郊外進出による農業用水路の汚染の進行等により、し尿浄化槽に対する監視の目も厳しくなっているところであります。こうした中でし尿浄化槽の普及に最も障害となっているのが放流先の確保であると思います。放流先が確保できない場合地下浸透(浸潤)という方式もあるわけですが、土壌の浄化能力は確かに優れているが、その浄化機構はまだ十分解明されておらず地下水汚染の懸念は残されており、いずれ地下浸透させた水は集水し放流することが現段階においては最善であると私は考えております。
 それでは、放流先の確保を容易にし、浄化槽を普及させていくにはどうすればよいか。それは、し尿浄化槽が社会から信頼されることであると思います。公共下水路あるいは農業用水路の汚濁原因として、無処理の生活雑排水以上にし尿浄化槽の排水が疑われる昨今であります。一般住民の中にはし尿浄化槽の排水はかなり不潔なものという潜在意識をもっている人が少なくありません。単独浄化槽と雑排水の放流管が同一であったりすると、雑排水をし尿と思い込んで苦情を寄せるケースもあるのです。
 それではし尿浄化槽が社会から信頼を獲得するにはどうすればよいか。第一に法を守ること。第二に合併式浄化槽の普及を推進し、現在殆ど無処理で放流されている雑排水も処理し、公共用水域の清浄化に貢献することであると思います。
 現状はどうでしょうか。
 昭和59年度のし尿浄化槽の法定検査受検率は51.8%で、そのうち適正と判定された浄化槽は22.3%であり、全体からみると適性であると確認されているのは11.6%だけであります。一方、法定検査非受検率は48.2%で、法定検査で不適となった11.4%を合計すると、少なくとも全体の54.1%、半数以上の浄化槽が法に定められた維持管理基準を遵守していないということになります。
 昭和59年度末現在の合併式浄化槽の設置率は8.9%だけであります。合併式浄化槽は規模の大きいものに多いわけですから、浄化槽人口からみるともっと率は高くなるわけですが、それにしてもさほどではないでしょう。いわば、し尿浄化槽を設置することによって、多くの場合設置者本人は個人の生活の快適さを得るが、公共には益をもたらさないことになるわけです。
 公道の側溝に放流できるようになれば放流先の問題はかなり解決されるわけであり、県環境衛生課では県道の側溝への放流を認めるよう県土木部に申し入れをしていますが、このような現状においては説得力に欠けるでありましょう。
 この現状の責任は第3に行政側にあり改善に向け努力を怠ってはならないと痛感しておりますが、維持管理業者の方々にも自覚を期待したいと思うわけであります。
 設置者から依頼を受けて浄化槽を維持管理している以上、維持管理業者の方々は皆自信をもって管理されていることと思いますが、それを社会的に証明する第一の手段は、現在の制度においては法定検査において適正の判定を受けることであります。会員の方々の中には自分が管理している浄化槽が法定検査を受けているかいないかは維持管理とは無関係のことと思っている方がいるようですが、設置者は維持管理契約をしたからには法に定められた維持管理をしてくれるものと期待していると思います。従って、法定検査を受けないことは法に定められた維持管理基準に反するわけで、保健所長から指導文書をもらってびっくり仰天するわけです。維持管理業者が維持管理の一環として法定検査の受検依頼についても世話をし、そして検査で適正の判定を受けるようできる範囲において最善を尽くすことが信義なのではないかと思うわけです。少なくとも会員の方が管理している浄化槽が法定検査を受けていないということのないようにあってほしいものと思います。
 合併式浄化槽の推進については、昨年9月から新たに設置する浄化槽については合併式としなけれなならなくなった(指導ではない。)ところであります。また、現在第8認定による50人槽以下の家庭用の小型合併浄化槽も出てきております。飲食店及び共同住宅等においては、雑排水による水路の汚濁をめぐるトラブルが多く、また単独の浄化槽が設置されてあったりすると雑排水も浄化槽の排水と思い込まれ、浄化槽の機能が疑われるケースが多いことからも、特にこうした建物では50人槽以下の浄化槽を設置する場合でも何らかの形で雑排水も生物処理されることが望ましいと考えております。これらのことについては、維持管理をされている方々には直接的には無関係のことでありますが、設置者への助言等、合併式浄化槽の普及に向けてご協力をお願いしたいところであります。
 法の厳守、合併処理の推進が、し尿浄化槽が真に社会に有益なものとして認められ、県民の生活水準の向上を目指し普及していく道であり、そのためには今後ますます官民が協力し事にあたっていかねばならないと思います。10月1日から浄化槽法が施行となり制度面においてもかなり整備されます。会員の皆様への期待は大であり、なお一層のご活躍を祈念する次第であります。