岩手県環境衛生課
滝川 義明
すでにご承知のとおり、し尿浄化槽の新構造基準が建設省告示第1292号により指定され、この6月1日から施行されております。し尿浄化槽の構造基準は、旧基準が昭和44年初めて現在のような形式で定められ、告示されております。それ以来ほぼ12年間にわたりこの旧告示に基づくし尿浄化槽は、工場で大量生産され、現在全国で350万基ともいわれ、全浄化槽設置数の大半を占めていると思われます。特に最近は年間30万基から40万基の増加数であり、今後も当分この傾向は続くだろうとみられております。しかしながら、旧基準の処理方式の中には、その性能が十分に発揮されなかったものや安定的でなかったものがあったこと、又、一方では最近、処理技術の進歩が目ざましく、すでにいろいろな新処理方式が試験的に実施に移されていることなどの現状を踏まえ、新たにし尿浄化槽の構造を再検討すべきときであるとの判断から、種々検討を重ね、今回の新構造基準が作成されたものであります。従って、新構造基準は次のようなねらいをもって定められております。
(1)新処理技術の導入
(2)性能の劣る処理方式の廃止
(3)より安定的な性能発揮を図るため、容量を拡大すること。
(4)一般構造の強化
(5)排出規制の強化、環境水域の保全に対応するために、BOD以外の水質項目についても対応できること。
新構造基準は一応上のねらいはすべて盛り込まれたものでありますが、浄化槽は適正な設計施工及び適正な維持管理があってその所期の目的を達成することができるものであり、この点今後とも一層行政、メーカー、設計、施工、そして維持管理の各サイドが努力、協力していく必要があります。
さて、新構造基準の告示を追って建設省住宅局建築指導課長から別掲のとおり運用通知がだされておりますので、以下、この通知の内容を含めて、今後新構造基準の運用上留意すべき点について若干ふれておきます。
1.処理対象人員の算定に当っては、当分現行のJIS-A3302を原則とするが、この規格について、現在改正する方向で検討中であること。従って、新算定方式が作成されるまでの間は、現行算定方式2のただし書きを用いる等柔軟に対処されたい。
2.旧基準の、全ばっ気型、平面酸化型等は廃止されたので、本年6月1日以降は設置できないこと。又、第2の構造において長時間ばっ気方式を採用することが可能な処理対象人員が101人以上から201人以上に引き上げられたこと。
3.新基準で示された構造に該当しないもの、あるいは旧構造基準で認定されたものであっても新構造基準に該当しないものは新基準の第8の規定に基づく認定を新たに受ける必要があること。例えば、50人槽以下の合併処理し尿浄化槽を設置しようとする場合は、その構造が第8の認定を受けていることが必要である。
4.合併処理の場合の処理水量の算定については、その建物の用途及び使用水量等を十分に検討して行われたいこと。合併処理の浄化槽の設計に当っては、その処理水量及び処理水質(BOD量等)をまず第一に把握することが重要で、処理対象人員を根拠として設計した場合は、実状にあわないケースがあるので注意されたい。なお、し尿浄化槽の構造基準、同解説(1980年版290頁以降)に、「建築用途別水量等分科会」が検討した合併処理し尿浄化槽の計画負荷量に関する参考資料が示されているので参照されたい。
なお、今後、当該運用通知以外にも第8認定に係る通知、あるいは性能評定制度に係る通知等が出される予定であることを申し添えます。
建設省住指発第100号
昭和56年5月7日
し尿浄化槽の構造基準の運用について
し尿浄化槽の構造基準の廃止及び制定については、昭和55年8月5日付け建設省住指発第193号により通知したところであるが、新構造基準の運用の細目等は、左記のとおりであるので、今後の施行に遺憾のないよう措置されたい。
なお、昭和44年5月1日付け建設省住指発第147号、昭和45年6月30日付け建設省住指発第297号及び昭和50年4月19日付け建設省住指発第267号は廃止する。
記
1.今回制定された構造基準については、合併処理の範囲の拡大に伴い、それに対応できる処理方式の検討を行うとともに、現行の維持管理の状態において安定した放流水質を確保するための基準の整備を図ること等を目的として定められたものである。新構造基準の趣旨及び運用上特に留意すべき事項は、次のとおりであるので遺憾のないよう指導、監督されたい。
(1)第1の規定関係
従来設置されていたものの大半を占める全ばっ気型等を廃止したこと。
(2)第2の規定関係
長時間ばっ気方式を採用することが可能な処理対象人員の下限値を従来の101人から201人に引き上げたこと。
(3)第3の規定関係
令第32条第1項の表中、特定行政庁が衛生上特に支障があると認めて規則で指定する区域においては、処理対象人員が501人以上の場合に、BODの除去率が85%以上及び放流水のBODが30ppm以下である性能を有するし尿浄化槽を設けることとしているが、処理対象人員がより少ない場合にも、し尿浄化槽にこの性能を持たせることは技術的に可能であると考えられることから、今回、この性能を有するし尿浄化槽の処理対象人員の下限値を51人(長時間ばっ気方式にあっては201人)にまで引き下げたこと。
(4)第4及び第5の規定関係
実施例がないことから、最小限の改正に止めたものであること。
なお、当該規定に係る区域指定を行う場合には、小職と協議されたい。
(5)第6及び第7の規定関係
水質汚濁防止法第3条第1項又は第3項の規定に対応するものであり、処理対象人員501人以上のし尿浄化槽について適用されるものであること。
なお、第7の規定は、放流水のBOD以外の水質項目について排水基準が定められている場合、その排水基準に対応する処理方式を示したものであるが、し尿浄化槽については通常の使用状態において規制すべきBOD以外の水質項目は、COD、SS等の5項目であり、この点については環境庁とも調整済みである。
(6)第8の規定関係
第8の規定に基づく建設大臣認定の趣旨は、昭和44年建設省告示第1726号(以下「旧告示」という。)第7の規定に基づく認定と同様であるが、その運用については別途通知する。
2.旧告示第7の規定により認定した回転板接触方式、接触ばっ気方式等の処理方式については、今回、その大半が構造基準に取り入れられることとなったが、同認定は旧告示の廃止に伴い、その効力を失うものであり、従って新構造基準の施行後は、認定の内容の如何を問わず新構造基準が適用されることとなる。また、旧告示により認定したし尿浄化槽で新構造基準の処理方式に該当しないものについては、新構造基準第8の規定に基づく認定を再度受ける必要がある。
また、これまでに建築基準法第38条の規定に基づき認定したし尿浄化槽についても、今回の構造基準の制定に伴い、新構造基準と同等以上の性能を有するものであるかどうかの見直しを行う必要があるものである。
これらの再認定及び見直しの結果については追って通知する。
3.し尿浄化槽には、極めて多種多様な構造形式があるが、し尿浄化槽の構造基準はこのうちの共通的かつ基本的な要件を集約し、これにより構成したものである。従って、個々具体的例によっては、判断の困難な場合の生じることも予想され、し尿浄化槽行政の円滑な推進の見地から性能を一元的に審査することが有意義であると考えられる。また、特に規格が一定な工場生産によるし尿浄化槽については、その設置を行うごとに、し尿浄化槽本体についての性能の審査を行うことは事務処理上必ずしも効率的ではないと考えられる。
そこで、このような事情を勘案し、併せて新構造基準に適合するし尿浄化槽の円滑な普及の推進及び生産の合理化を図ることが要請されていることに鑑み、財団法人日本建築センターにおいて従来から行われてきたし尿浄化槽性能評定制度を、一層拡充強化することとした。
本制度は、主として、工場生産によるし尿浄化槽を対象とするものであるが、このほか、今回の構造基準制定により新たに導入された処理方式等についても、接触材等の有効性の判断が困難な場合等も有りうることから、本制度の対象とすることとしている。
評定は、学識経験者及び行政関係者等により組織された委員会において、し尿浄化槽の構造に止まらず、実証試験の結果、維持管理の構造的対応等についても留意して行うものであり、評定の結果、所要の性能を有すると認められるものについては、その旨の評定書を交付するとともに、性能評定シートに掲載することとしている。
今後、評定書が交付されたものについては、小職からその都度、貴職あて通知するとともに、財団法人日本建築センターからも性能評定シートを送付することとしているので、確認にあたっては、構造基準に適合するものとして、性能評定シートの写しをもって建築確認申請図書の一部に替える等、積極的に活用されたい。
なお、本制度の対象とはならないもので判断が困難なものについても、本制度とは別に性能評定を行うこととしているので、技術的判断を下すうえで参考として利用されたい。
本制度の詳細、評定事務の進捗状況については別途通知する。
4.現行のし尿浄化槽の処理対象人員の算定方式は、日本工業規格「建築物の用途別によるし尿浄化槽の処理対象人員算定基準(JIS-A3302)に定めるところによることとしているが、同JISは、便所の使用人数のみの算定を扱ったものであり、また、多種多様な建築物の全てに十分対応しているとは言い難い面がある。そこで、同JISの改定を行い、合併式し尿浄化槽にも対応できるものとすることを予定しているが、新算定方式が作成されるまでの間は、現行算定方式2のただし書を用いる等、処理対象人員の算定にあたって柔軟に対処されたい。