浄化槽の効用を見直そう

岩手県環境保健部生活衛生薬務課
川股 行三


 厚生省は来年度の予算要求の中で、浄化槽対策の強化として、3つの新しい施策を検討している。
 1つは、行政組織の強化として浄化槽対策室の新設であり、2つは、浄化槽の維持管理を適正に行わせるために、浄化槽の正しい知識の普及、啓蒙を図ることが重要であることから、保健所単位に浄化槽相談員を配置するための育成費の設定であり、3つは、生活排水対策の一環として、家庭用の合併処理浄化槽設置の促進を図る上から、現在、設置者に補助制度を実施している市町村に対して、予算補助を行おうというものである。いずれも予算要求の段階であるが、「浄化槽法」の全面施行に伴い、いよいよ浄化槽対策に本腰を入れる時が来ている。
 現在、浄化槽は全国で約500万基に達しており、約3000万人が使用している。その普及率は全人口の4分の1を占め、なお、毎年40万基が増加している。ちなみに、岩手県の60年度末、浄化槽設置基数は11,452基でその処理人口は118,768人となっている。一方、下水道の普及率は全国平均34%で、その利用人口は、浄化槽人口とほぼ同数である。下水道利用人口に匹敵する利用者がいながら、今まで、ないがしろにしてきた浄化槽の活用を積極的に進める時が来ている。今までの浄化槽は、単独浄化槽が中心で、ややもすれば、水質汚濁の元凶のように見られがちであったが、法制度の強化と、更に、最近の浄化槽の処理技術の向上はめざましく、特に、し尿浄化槽の構造基準第8の規定により建設大臣の個別認定を受けた家庭用の合併浄化槽の登場は、地域によっては、下水道より安上がりで、しかも効率的な生活排水の浄化が可能になっている。
 岩手県の第5次下水道整備5ヶ年計画(昭和56年度~昭和60年度)の計画額(総事業費)は600億円で60年度末の整備見込みは処理人口168,000人普及率は11%を見込んでいる。すなわち5年間に処理人口増は65,800人で、普及率は昭和55年度が7%であったものから4%の伸びを見込み、一人当りの設備投資は約91万円となる。
 最近、登場の家庭用合併浄化槽は5人~6人槽で約40万円~60万円で一人当り10万円前後である。設置費だけの単純比較はできないとしても、今後、岩手県の下水道の伸び率を年1%としても全国レベルに上げるのに、あと50年(全国平均も年々上がる)は優にかかるし、ましてや、農山漁村地域を考えると公共下水道は殆ど絶望的なのである。
 最近、河川や湖沼の水質汚濁の原因として、生活排水がそのやり玉に上げられている。生活排水対策の有効手段として、現在、やっと、いろんなメニューがそろってきた。
 即ち、公共下水道であり、地域し尿処理施設であり、合併浄化槽である。すでに地方自治体の中には、浄化槽設置世帯に補助金を出すところもでてきている。このように、今後は地域の実情に合わせ、メニューの中から適切な施設を選定するとともに、新しい合併浄化槽の普及を進めることで、水質汚濁の追放をはかり、生活環境の保全及び公衆衛生の向上をはかる必要があるものと思われる。