水処理の考え方と浄化槽

岩手県北上保健所
古川 治


 水処理施設を計画するうえで規模の大小は、その難しさにおいて本質的な違いはないと言われております。規模の違いによる差というのは実は複雑さ、簡単さ、ということなのです。規模が大きければ、それに携わる人数も多く、たくさんの情報を処理できます。したがって、こういう施設は、高度な技術を用いても、いかに安く、大量に処理をするか、という点が問題になります。規模が小さい場合には、情報を処理し得る人数に限りがありますから、できるだけ簡単な操作で、いかに安全な処理をするか、という点が問題となるわけです。
 処理技術について言えば、我々が現在利用できる水処理の手段は多くありません。基本的には、スクリーン、沈澱ろ過、凝集、吸着、酸化、逆浸透凝析及び生物処理といったところです。
 浄化槽に関することというお話でしたから、手段の個々の用語の説明は、省かせていただきまして浄化槽に用いられている手段に限定して話をすすめます。
 水の汚濁物質の大きさ、つまり粒径が10-1~10-2㎝程度の大きさのものまでは、沈澱で処理ができます。10-2~10-3㎝程度のものはろ過によって処理が可能です。しかしながら、10-3~10-7㎝程度のいわゆるコロイドや、それ以下の大きさの溶解物質は、簡単な物理的手段では処理ができません。
 けれども幸いなことに、浄化槽の処理する水は、有機物によって汚染された水ですから、生物処理が可能です。水に含まれた微小な汚濁物質を微生物に捕食させることにより、沈澱可能な10-2㎝以上の大きさにして、水の中から汚泥として取り除き、水をきれいにするわけです。つまり、浄化槽で用いている水処理の手段は、沈澱と生物処理の2つである、と言っていいと思います。
 さて、浄化槽はそのほとんど全部が小規模、というよりは零細な規模の施設です。従って、浄化槽を計画するうえで考えなければならないことは、いかに簡単な処理にするか、ということにつきると思います。
 私の個人的な意見を述べさせていただけば、現在の構造基準にある浄化槽では、最も簡単で良い処理方式は「散水ろ床方式」であると思っています。なぜなら、一部のものを除いて可動部分もなく、動力も用いてないこの処理施設は、故障も少ないだろうし、管理も簡単だからです。
 ただ、残念なことに、汚水を均等に散布するのが、非常に難しいという大きな欠点があり、さらに悪臭と蚊、はえ等の昆虫の発生という問題があります。従って、この方式も万能というわけにはいきません。
 しかしながら、ここで、均等に散水するという問題を、全く違う考え方で解決した人達がいました。
 それは、どうせ均等に散水できないのなら、ろ床ごと水の中に漬けてしまおうというのです。水に均一に触れさせるのと、酸素の供給をかねての空気の吹き込みは、動力を用いなければなりませんが、これも、簡単な良い処理方式であると思っています。「分離接触ばっ気や沈殿分離+接触ばっ気方式」がこれです。ただし、これは動力を用いており、散水ろ床に比べれば、設備も複雑ですから、それなりの管理はどうしても必要です。
 先日、考えられない設置者がおりました。
 協会の法定検査の通知があって立ち入りしたのですが、電気代がもったいないから、電源を抜いているというのです。ここまでなら、たまにはこういう人もいるわけですが、縷々説明して理解を得ようとして努力しても、「トイレを使うのに何も不便はない。車だって凹んでいても、そのまま使う人もいる。」と、取り合いません。これには、私どもも開いた口が塞がりませんでした。
 これは、ちょっと極端な例ですけれども、考えてみると、浄化槽はまだ一般の設置者が管理するのには、十分簡単な処理施設ではないのかな、という気もしてきました。どんなに、良い処理水のだせる立派な浄化槽を造っても、設置者の管理に対する理解と、自身のある程度の日常に管理がなければ、現在の方式では、良好な処理水を得るのは困難であると思います。
 浄化槽を計画するときには、建築物の種類や汚水の水質、水量によって、処理方式を選定すべきなのはもちろんです。しかし、それ以上に、設置後に期待できる管理の質をよく考えて計画することを忘れないで頂きたいと思います。
 どうぞ、常により簡単な処理方式を選択して下さい。このことが、安定した水質を得る、重要なポイントだと思うからです。
 管理のし易い、安定した処理水の得られる浄化槽を計画すること、このことをお願いしまして、終りとさせていただきます。