ガーナのトイレ事情について

岩手県二戸保健所
八重樫 満


 私は平成2年7月から4年7月まで西アフリカのギニア湾に面する国ガーナに青年海外協力隊(理科教師)として派遣される機会がありました。そこで、この2年間の体験からガーナのトイレ事情について少し述べたいと思います。
 ガーナでは現在でも天然トイレから水洗式トイレに至るまで幅広く利用されています。天然トイレとは正に自然の中で用をたすところであり、水洗式トイレには浄化槽が併設されています。ところで、ガーナと浄化槽がどう結びつくのか疑問に思われるかもしれません。ガーナは1957年にアフリカで最初に独立した国で、独立するまではイギリスの植民地でした。そのためガーナ人の生活の一部にイギリスの生活様式が取り込まれています。実はその一つがこの浄化槽なのです。恐らく日本に初めて浄化槽が設置される以前にガーナでは既に設置されていたと思います。しかし残念ながら現在に至ってもそれ程普及していないのが現状です。私がガーナに住んでいた家にも幸か不幸か浄化槽がありました。つまりトイレは水洗式でした。しかし、ガーナには大きな社会問題の一つに水不足があります。水洗式トイレは当然水が無ければ使えませんが、私も水不足に悩まされ流すために1日1回、しかもバケツ半分の水(約10リットル)しか使えませんでした。この水不足の問題が浄化槽の普及を妨げています。私のところにあった浄化槽は現場打ちのコンクリート製、腐敗タンク方式でした。放流水はそのままやぶの中に流されます。
 ガーナでは水洗式トイレは主として都市に普及しており地方にはほとんどありません。私は地方に住んでいましたが、地域の有力者である校長先生の家を間借りしていたため浄化槽が設置されていたのです。また、都市においてもまだ自宅にトイレが無い世帯があります。地方にあっては世帯専用のトイレはほとんど無く、共同トイレが利用されています。さらに、地方の村では共同トイレすら無いところもあり天然トイレが利用されます。地方のトイレの典型的なものは地面にただ穴を掘り、そこに板を数枚渡すだけの簡単なトイレです。私が住んでいた家にも水洗式トイレの他この素掘りのトイレがあり、直径、深さともに2メートルぐらいはありました。日本の昔の和式トイレが今だに生きています。私が通っていた学校には大きな素掘りのトイレがあり10人ぐらいが横に並んで用をたすことができます。しかし、トイレとトイレの間には仕切りが無く慣れるまでは大変でした。素掘りのトイレの他には便座式のトイレがあります。これはコンクリート製の椅子に直径15センチ程の穴があいており穴の下に木の箱を置いた形式のものです。箱は溜り次第清掃されるので日本の汲取便所に似ています。公衆トイレは都市を除けばほとんどありません。公衆トイレは清掃職員のために有料で1回5セディ(日本円で約2円)かかります。これらのトイレに溜まった、あるいはトイレから清掃されたし尿は処理されること無くそのまま土地に還元されます。
 ガーナでも大規模な処理施設として公共下水道があります。これについては1975年に排泄物除去条例が制定されました。条例の内容は首都圏に住む全ての世帯が水洗式トイレを所有し公共下水道に接続するというものです。しかし、高い敷設費用と水不足のため遅々として整備が進んでいません。また、公共下水道の管理はガーナ上下水道公社が行っていますが十分ではありません。例えばポンプ一つが故障しても修理あるいは交換するのに長い月日がかかります。ここでの公共下水道は生活排水処理よりもし尿処理が中心です。
 ガーナでは全般に渡ってし尿処理、生活排水処理いずれも自然の浄化能力に頼っています。しかし、最近のある調査で都市付近の湖のBOD値が300から400ppm(mg/l)もあったという報告がありました。ガーナでも次第に水質汚染が広がっているのです。