今後の汚水処理の展望

財団法人日本環境整備教育センター
理事兼調査研究部長 大森英昭


1.生活排水処理事業の概況
 日本においてなんらかの行財政制度による生活排水処理事業は、表1に示したように13種類存在している。

表1 生活排水処理事業の種類
事業名 事業主体 国庫補助金*1 所管の省庁 計画規模 処理形態
①公共下水道事業(狭義)*2 市町村*4 あり 建設省 制限なし 集合処理
②特定公共下水道事業 市町村 あり 建設省 1,000~10,000人*7 集合処理
③特定環境保全公共下水道事業 市町村*4 あり 建設省 制限なし 集合処理
④流域下水道事業 都道府県*5 あり 建設省 制限なし 集合処理
⑤合併処理浄化槽設置整備事業 市町村 あり 厚生省 制限なし 個別処理
⑥特定地域生活排水処理施設整備事業 市町村 あり 厚生省 20戸以上 個別処理
⑦コミュニティ・プラント 市町村 あり 厚生省 101~30,000人 *10
⑧農業集落排水事業 市町村*6 あり 農林水産省 100~1,000人*8 集合処理
⑨簡易排水施設整備事業*3 市町村 あり 農林水産省 10戸以上,20戸未満 集合処理
⑩漁業集落排水事業 市町村 あり 水産庁 100~1,000人程度 集合処理
⑪林業集落排水事業 市町村 あり 林野庁 20~1,000人程度 集合処理
⑫小規模集合排水処理施設整備事業 市町村 なし - 10戸以上,20戸未満 集合処理
⑬個別排水処理施設整備事業 市町村 なし - 20戸未満*9 個別処理
*1:建設省における国庫補助金の有無 *2:広義の公共下水道は①~③を含む *3:山村振興等特別対策事業のメニュー事業 *4:過疎代行事業で県 *5:原則として都道府県
*6:県あるいは土地改良区の場合もある *7:地区によっては1,000人未満でもある *8:市町村および都道府県の関係部局間で協議調整を行えば1,000人以上でも実施できる
*9:地域によっては10戸以上20戸未満 *10:個別処理または集合処理

このうち、個別あるいは集合形の合併処理浄化槽が用いられるのが、⑤、⑥、⑧、⑨、⑫及び⑬の6種類の事業であり、さらに⑩及び⑪の事業の一部にも含まれている。また、これ以外に下水道未普及地域において、トイレ水洗化のため、個人的に合併処理浄化槽が設置されている。すなわち、市町村あるいは個人が生活排水処理を行う場合、計14種類の手段が与えられていることになる。
 これらの手段を実際に活用した結果である汚水衛生処理率(自治省資料)の経年変化(対人口比)をみると表2に示された状況である。


表2 汚水衛生処理率(自治省)の経年変化   単位は[千人]
平成5年度 平成6年度 平成7年度
行政区域内人口 125,688 126,066 126,337
公共下水道 54,787(43.6%) 57,403(45.6%) 59,777(47.3%)
合併処理浄化槽 6,258( 5.0%) 6,567( 5.2%) 7,087( 5.6%)
コミュニティ・プラント 482( 0.4%) 479(0.4%) 488( 0.4%)
農業集落排水施設 407( 0.3%) 537( 0.4%) 710( 0.6%)
漁業集落排水施設 22( 0.0%) 26( 0.0%) 31( 0.0%)
61,957(49.3%) 65,013(51.6%) 68,094(53.9%)
建設省発表の
    下水処理率
    高度処理率

49%
-

51%
3%

54%
4%

 すなわち、全国平均では平成5年度~7年度の3年間に汚水衛生処理率は49.3%から53.9%と4.6%の増加であり、公共下水道は、43.6%から47.3%へと3.7%それぞれ増加している。
 しかし、平成6年度における汚水衛生処理率を市町村別(表3)にみると、全市町村数3,234のうち汚水衛生処理率が19%以下の市町村数が2,140、66.1%を占めており、逆に汚水衛生処理率70%以上に達している市町村数は200、6.2%に過ぎない。


表3 市町村別の汚水衛生処理率(平成6年度)
汚水衛生処理率 市町村数 汚水衛生処理率 市町村数
~<10% 1,625(50.2%) 50~59% 139(4.3%)
10~19% 515(15.9%) 60~69% 98(3.0%)
20~29% 284( 8.8%) 70~79% 78(2.4%)
30~39% 206( 6.4%) 80~89% 52(1.6%)
40~49% 167( 5.2%) 90~99% 65(2.0%)
小計 2,797(86.5%) 100% 5(0.2%)
合計 3,234(100.0%)

 また、下水道の都市規模別処理人口普及率(平成8年度、建設省資料、表4)によると、人口5万人以下の都市数(自治省・市町村、建設省・都市)2,782、全都市数の約86%にあたるものが下水道普及率18%であり、下水道普及率71%以上を示している都市数は20に過ぎず、いずれも人口50万人以上の都市である。


表4 都市規模別処理人口普及(平成8年度末)
人口規模 100万人以上 50~100万人 30~50万人 10~30万人 5~10万人 5万人未満
総人口:万人 2,483 605 1,727 2,613 1,576 3,521 12,526
処理人口:万人 2,419 428 1,099 1,574 700 632 6,852
普及率:% 97 71 64 60 44 18 55
総都市数 11 9 44 159 228 2,782 3,233
実施都市数 11 9 44 159 222 1,572 2,017
未着手都市数 0 0 0 0 6 1,210 1,216
供用都市数 11 9 44 157 205 939 1,365
未供用都市数 0 0 0 2 17 633 652
総都市数3,233の内訳は、市669、町1,993、村571(東京区分は市に含む)
総人口は四捨五入を行ったため、合計が合わないことがある
出典:建設省の資料

 このような状況から明らかなことは、汚水衛生処理率や下水道普及率の全国平均的な値をみても、①それぞれの地域ごとの実状を想定できないのみならず、逆に誤解を生じる可能性もある、②各市町村の人口規模別に分けてみると汚水衛生処理率、下水道普及率は極めて偏った傾向を示し、おそらく各市町村財政の差異がその大きな理由の一つである、の2点であろう。

2.合併処理浄化槽の概況
[2-1] 設置数の推移
 合併処理浄化槽の設置状況については、1の表1に示されているように、事業の種類が多様であるため、全国における設置数の経年変化及び単独処理と合併処理それぞれの基数を表5に示した。なお、各年度ごとの設置数は、下水道普及に伴って廃止されたものと新たに設置されたものとの加減の結果である。


表5 浄化槽設置基数の推移(全国)
平成元年度
(1989)
平成2年度
(1990)
平成3年度
(1991)
平成4年度
(1992)
平成5年度
(1993)
平成6年度
(1994)
平成7年度
(1995)
平成8年度
(1996)
~20人槽 5,591,415 5,814,560 5,973,646 6,215,136 6,453,542 6,697,346 6,918,346 7,104,844
21~100 851,723 868,087 862,512 882,712 894,683 904,836 910,521 901,440
101~500 146,267 148,020 147,616 149,201 149,784 150,588 151,977 150,863
小計 6,589,405 6,80,667 6,983,774 7,247,049 7,498,009 7,752,770 7,981,052 8,157,147
501~1000 8,028 8,270 8,392 8,430 8,599 8,705 8,911 9,063
1001~2000 3,630 3,771 3,892 3,965 4,104 4,185 4,335 4,441
2001~3000 1,114 1,150 1,201 1,211 1,246 1,262 1,329 1,376
3001~4000 350 349 367 377 384 399 415 420
4001~5000 176 189 203 209 221 223 232 234
5001~ 506 508 508 511 498 487 474 471
小計 13,804 14,237 14,563 14,703 15,052 15,261 15,696 16,005
合計 6,603,209 6,844,904 6,998,337 7,261,752 7,513,061 7,768,031 7,996,748 8,173,152

単独処理 6,449,080 6,637,654 6,723,666 6,899,391 7,042,581 7,173,371 7,277,131 7,301,593
合併処理 154,129 207,250 274,671 362,361 470,480 594,660 719,617 871,559

 平成元年には浄化槽全設置数約660万基、このうち合併処理は約15万基であったものが、平成8年度では全設置数約817万基、このうち合併処理が約87万基となっている。8年間で全設置数が約150万基増加しているが合併処理については約72万基と著しい増加率が認められる。
 また、昭和62年度から平成9年度の工場生産浄化槽の出荷統計((社)型式浄化槽協会資料、表6)によると、平成9年度を除く各年度ごとの出荷台数は約45万台から51万台であり、ほぼ近似しているが、このうち合併処理については年度ごとに数%ずつ上昇している。昭和62年度に約6,500台、全出荷台数の1%であったものが、平成8年度約156,000台、全出荷台数の約32%と極めて高い上昇率を示している。その分だけ単独処理浄化槽出荷台数は減少している。


表6 工場生産品の出荷台数の推移
昭和62年度 昭和62年度 平成元年度 平成2年度 平成3年度 平成4年度 平成5年度 平成6年度 平成7年度 平成8年度 平成9年度
単独処理浄化槽 509,842
(99%)
480,945
(97%)
446,839
(94%)
435,365
(90%)
390,495
(86%)
393,647
(83%)
373,955
(79%)
370,098
(75%)
338,925
(72%)
339,487
(68%)
274,259
(66%)
合併処理浄化槽 6,530
(1%)
17,289
(3%)
29,284
(6%)
48,007
(10%)
61,507
(14%)
79,168
(17%)
101,326
(21%)
120,469
(25%)
131,242
(28%)
156,800
(32%)
140,742
(34%)
合計 516,372
(100%)
498,234
(100%)
476,123
(100%)
483,372
(100%)
452,002
(100%)
472,815
(100%)
475,281
(100%)
490,567
(100%)
470,167
(100%)
496,287
(100%)
415,001
(100%)

 この理由として、まず①厚生省が合併処理浄化槽に対する補助制度を創設したこと、②生活排水に由来する水環境汚濁問題の認識が行政庁、国民の間で高まったこと、③浄化槽メーカー、工事、保守点検、清掃等民間浄化槽関連業界団体が将来志向を合併処理化へ向けたこと、及び④市町村における生活排水対策の財政上の問題が大きくなったこと、等があげられる。
 現在の建築基準法体系の中では処理対象人員500人まで単独処理浄化槽の設置は一応許容されており、5人~数10人規模の合併処理は必ずしも義務化されているわけではない、にも係わらずこのような延び率を実際に示しているのである。

[2-2] 合併処理浄化槽普及上の課題
 小規模分散設置形の生活排水処理施設である合併処理浄化槽は次のような特徴を有している。

 

  1. 設置費用が安く、かつ工事期間が短い。
  2. 面に供給された水を同じ面に還元するため、地下水、河川水等の水資源循環に極めて有用である。
  3. 災害時に緊急用水として早期に対応可能であり、同時にトイレ対策にもなる。
  4. 有害物を含まない有機質汚泥が回収可能であり、有効利用の価値が大きい。

 以上は合併処理浄化槽の有利な事項であるが、一方では、次のような解決していかなければならない特徴も有している。


  1. 同一市町村内で、下水道事業や農業集落排水事業等を実施している場合、集合処理区と個別処理区との住民に対する行政サービスに大きな格差がある。
    • 設置時において浄化槽の機種選定や浄化槽工事業者との契約、保守点検業者及び清掃業者との業務委託契約、指定検査機関への受検の申込み等個人で行うべき手続きが煩雑である。
    • 下水道などの集合処理施設の使用料に比べ、維持管理料金が高い傾向が認められる。
  2. 面的な整備を行うためには、住民の環境保全意識の向上を図り、処理施設の整備に対して、少なくとも集落単位で住民の合意形成を得る必要がある。
  3. 維持管理を個人に任せていることから、適正な管理がなされていないことがある。

[2-3] 浄化槽産業の特徴
 2-2に述べたような課題以上に、浄化槽の生産供給、工事、保守点検、清掃といった関連事業を合わせた浄化槽産業としての大きな特徴が歴史的に存在している。
 日本で単独処理浄化槽が初めて用いられたのが大正時代といわれているが、以後現在に至るまで、浄化槽産業は全て民間企業が民業として実施してきたことである。現在、種々の分野において事業の民営化、民間への移転等が話題となってきたが、その観点からすると浄化槽産業は事業開始当初から行っており、いわば時代の先取りをしていたといえよう。

[2-4] 合併処理浄化槽の維持管理
 浄化槽の処理性能を正常に発揮させるためには保守点検及び清掃からなる維持管理は必須の条件である。もちろん、下水道等の集合形処理施設においても維持管理は同様に重要な条件である。
 しかし、浄化槽については従来から維持管理費は100%設置者負担で推移してきたが、合併処理浄化槽については、もはやトイレ水洗化の利便性といった段階から水環境保全という公共的処理施設と理解されなければならない。
 特に同一行政区域に下水道事業と合併処理設置整備事業が共存した場合、あるいは共存していない区域においても、住民の費用負担の公平性、公共事業的性格の評価等から、市町村単位で管理費の個人負担を何らかの形で軽減する必要があると考えることは当然であろう。
 現在、市町村が行っている管理費の補助には、直接設置者に補助を行う方法と設置者及び関連業者を含む地域的な維持管理組織を構築し、その組織に対して補助を行う方法の2種類がある。約280の市町村が管理費補助を実施しており、さらに既設単独処理浄化槽の合併処理転換費用をも補助している市町村が既に60余に達している。
 このような現象は、表-1に示したような生活排水処理事業のメニューについて、市町村自体の行財政及び目的に対する費用効果等の観点からより合目的な選択を行うようになってきたことの現れと考えられる。

3.合併処理浄化槽普及方法の検討
[3-1] 一括契約方式
 県単位あるいは市町村単位で存在している浄化槽関連業界団体を窓口とし、合併処理浄化槽設置に関する行政手続きの段階で、工事、保守点検、清掃の契約あるいは浄化槽法に基づく法定検査申込み等、住民にとって煩雑でかつ不安感を抱くような事項を一挙に片付けてしまう方法である。そのためには、行政庁自体が業界団体、住民に対して積極的な支援体制を取らなければならない。

[3-2] 市町村事業による計画的面整備方法
 市町村が合併処理浄化槽設置事業を行う際、最も注意しなければならない点は、住民の希望による設置といった方法をこれ以上続けないことである。すなわち、ある地区に汲み取り便槽、単独処理浄化槽及び合併処理浄化槽の混在状態を作り出すため、例えば下水道計画などによる生活排水処理事業を同一地区に二重に組み立てることになる。また、現状では市町村の生活排水処理計画立案の際、20年単位の長期にわたる下水道計画区域を除いた地区についてのみ合併処理浄化槽設置計画を検討している。
 表-4に示したような下水道事業の状況からみると、それぞれの地域の水環境保全を前提とするならば、極めて投資効果の低い手法といえよう。さらに市町村の行政人口と下水道計画人口の差異及び事業遂行の時間差が、し尿処理施設の計画処理能力の設定にも影響を生じ、浄化槽清掃汚泥の搬入困難となる地区も多く出現している。
 すなわち、生活排水処理計画の策定にあたって初めから下水道計画区域、合併処理浄化槽区域あるいはその他事業区域の設定を同時に検討し、とくに合併処理浄化槽についてはバラバラ設置ではなく、面設置が可能となるようにしなければならない。
 合併処理浄化槽は個人所有の敷地内に設置されるため、面的整備計画を立てても地区住民の同意を得ることが先決となるのであるが、これを市町村事業として扱うことにより合目的化することは必ずしも困難とはならないであろう。
 むしろ、生活排水処理計画に関連する種々の法制度の運用上の整理の方が事務手続上困難であろう。
 しかしながら、こういった生活排水処理計画の策定方法を取ることの方が、市町村、住民の費用負担の問題も軽減され、かつ維持管理上、清掃汚泥の取扱いも計画的に設定することが可能となるであろう。
 また、このような生活排水処理計画を市町村事業として実施する場合、浄化槽本体、工事及び維持管理を一体のものとしていわゆる第3セクターあるいは民間産業界に委託し、20~30年間にわたって全費用を使用料金として回収するといった方法も考えられるであろう。
 合併処理浄化槽の普及対策は合併処理浄化槽そのもののみの問題ではなく、これを新たな経営手法によって活用することが大事なのである。その結果として、生活排水処理事業における市町村、住民の経済的負担の軽減、水環境保全に要する時間の短縮、衛生的安全性の確保、ひいては有機質汚泥の有効利用計画まで大きく改善されるであろう。

4.単独及び合併処理浄化槽の放流水に由来する水環境の変化
[4-1] 汚水の流れ
発生源 周辺小排水路 小中河川・水路 中大河川・湖沼
(住宅、
事業所、
農畜産、水産、
農業林業)
(汚濁度合不明確) (汚濁度合やや明確
原因不明確)

[4-2] 生活排水の排出による影響

  1. 水質汚濁
    1. 有機性汚濁
      好気性微生物による有機物質の分解 ― 溶存酸素の消費 ― 嫌気性化進行 ― 嫌気性微生物の活動 ― 腐敗現象
    2. 富栄養化…有機性汚濁
      リン、窒素(栄養塩類) ― 閉鎖性水域(内湾・湖沼等) + 太陽光 → 自栄養性微生物 ― 有機物質合成 ― 蓄積 ― 有機性汚濁
  2. 底質汚濁
    厨房、単独処理浄化槽排水の有機性固形物の沈降停滞 ― 停滞部周辺の好気、嫌気微生物による分解 ― 溶存酸素消費 + 水質汚濁 → 汚濁化の加速度的進行 + (臭気・水質) ― 総合作用

[4-3] 生活排水対策

  1. 基本的事項
    1. 衛生的安全性確保、水環境保全(水質、水量)・水資源維持
    2. 費用効果 ― 時間と財源 ― 手段の選択
    3. 汚泥対策 ― 有効利用
  2. 合併処理浄化槽
    1. 汲取り便槽、単独処理浄化槽との汚濁負荷の相違
      汲取り便槽 単独浄化槽 合併浄化槽(一般)
      し尿 4~5g・50l 4g・200l
      雑排水 27g・150l 27g・150l
      27g・150l 31~32g・200l 4g・200l
      1人1日当りBOD排出量40gとすると
      ≒68% ≒78~80% 10%
    2. 事業効果
      • 小規模分散方式 ― 迅速性 ― 費用低減性 ― トラブル対応の容易性
      • 工事費、維持管理費の地元還元効果
      • 面的整備により他生活排水対策事業の合理化促進
      • 面的な水資源の維持 ― 地下水周辺小排水路、小中河川への効果
    3. 設置計画
      • 新規 ― 単独処理廃止、合併処理の選択
      • 面的な設置計画が必要
      • 既設単独処理の合併処理への転換対策
    4. 維持管理
      • 保守点検、清掃の契約
      • 清掃汚泥対策 ― 自治体 ― 民間企業 ― 有効利用

[4-4] 水質汚濁
 すでに周知であるが、単独処理浄化槽放流水と未処理放流されている雑排水の汚濁負荷をBODを指標としてみると、前者が1人1日当り約4.6g、後者が約27gとなり、一般的に標準とされている1人1日当りBOD排出量40gのうち約32g、すなわち全体の82%が放流されている。逆にみると、BOD除去率は全体のBOD排出量の18%に過ぎない。
 これに対して合併処理の場合は、放流水BOD20mg/l、200l/人・日とすると1人1日4gが放流されているに過ぎない。
 このことが現在すでに古典として扱われている“単独処理浄化槽が増加した地域は、必ず水質汚濁が進行する”理由である。

[4-5] 底質汚濁
 大小さまざまな規模の建築物の雑排水が未処理で放流された場合、4-1に述べた水質の問題以上に考えなければならないのは、厨房排水に含まれる有機性固形物の水路における沈降堆積―底質腐敗現象である。排水口近辺の小水路から部分的に始まり、次第に拡大されて広範囲におよび臭気の発生、酸素収支の悪化を生じ、自浄作用の阻害に至ることになる。すなわち、水路、河川の水質汚濁は、底質汚濁と同時進行となり、より排水口に近いところから加速度的に増大するのである。

5.生活排水対策の社会的課題
[5-1] 衛生的安全性の確保
 我が国の水系感染症は、歴史的にみて極めて減少したが、その理由の一つは明らかにし尿の衛生的処理の普及効果であろう。この点について単独処理と合併処理を比較すると放流水質の差異と消毒効果を含めて、論ずるまでもなく合併処理の方が安全性が高いのは自明である。

[5-2] 水環境保全
 水系別、地域別の総合的な水環境保全を考える場合、最初に必要なことは汚濁発生源の正確な把握である。農水産、畜産及び林業系、各種事業所系あるいは生活系などそれぞれの汚濁発生源の分布状況、汚濁寄与率は地域によって千差万別であり、その地域においてはどの発生源対策が重要であるかについても、それぞれ異なっている。
 しかし、全般的にみると、各地域ごとに総論的には上述の問題に言及しているが、各論あるいは実施面においては見事なまでに行政区分に沿った縦割り対策に終始している。しかも、法制度に基づいた排水処理施設の放流水質をいかに低下させるかに重点が置かれているようである。
 水環境保全を前提とするならば、流域ごとの汚濁寄与率から優先的に対策を講じる計画が求められるのであるが、これは理想であって現実の行財政では簡単にいかない。とりあえず、できるところからやらなければならないというのが弁明の共通事項であろう。
 そこで生活排水対策に限定してみると、水環境保全のために処理施設を設ける場合、小規模施設を面的に分散して設置し、放流水も面的に分散放流する方が汚濁物質の流達率の低下、水環境保全からも有利であり、地域全体の自浄作用の促進につながると考えられる。
 放流先水域の流量、水質あるいは利水状況を考慮せずに大量の放流水を一点に直接放流することは、たとえ、放流口における水質が規制値に適合していても水環境保全の目的に反する結果となることがある。このことは、特に既存単独処理浄化槽の改善対策に重要な因子である。

[5-3] 費用負担
 生活排水対策に安易に下水道を導入した場合、財政規模の小さな自治体では建設費、維持管理費のいずれにおいても多大の困難を生じていることは周知である。また、受益者の費用負担は公共料金の名のもとに、下水道経営を考慮しない低額が設定されている。一方、合併処理浄化槽の維持管理費は、常に下水道受益者負担費用と比較されその高低が論じられている。
 全国平均的には、下水道維持管理費の半分近くが一般会計から補填されていること、すなわち納税者全員が負担していることになる。
 また、浄化槽の位置付けは、すでに建築物のトイレを水洗化するための手段のレベルを超え、水環境保全のための公共施設となっている。すなわち、各建築物の敷地内において住民個人が公共事業を行っているのである。
 もちろん、このような話は浄化槽がすべて合併処理であることを前提にしており、そのために自治体が建設費、維持管理費などに何らかの財政援助を行ったとしても十分成り立つものであろう。

6.生活排水対策の基本的考え方
[6-1] 環境管理計画の重要性
 一般に文明国といわれているような国々では、ある町で例えば宅地開発を行う場合に、その区域に自治体としての生活排水処理計画があるのかないのかが大きく影響するようである。また、自治体が新たな都市計画や将来の産業発展計画を立てる場合、上下水道、廃棄物、エネルギー、その他立地条件等、総合した環境管理に要する費用について財政上の裏付けが得られるかどうかが計画決定の大きな要因となっている。通常の自治体経営においても環境管理のための費用と財政負担の関係が長期にわたって検討されるのが当然とされている。
 我が国では、多くの場合これが逆になっており、生活排水対策は事後の問題となる傾向が強く、このことがひいては単独処理浄化槽増加の理由の一つにもなっている。
 その結果、同一地域に汲取り便槽、単独処理浄化槽あるいは合併処理浄化槽が混在することになり、再び下水道計画の2重投資を行うに至るのみばかりか、汚泥処理―し尿処理施設整備計画まで悪影響がおよぶのである。
 もし、このような地域において既存、新設を問わず単独処理浄化槽が廃止され、汲取り便槽も含めて合併処理浄化槽とされておれば2重投資となる無駄も省け、自治体財政もより有利となることは明らかである。

[6-2] 生活排水処理計画
 それぞれの自治体において、上水源、水路河川、湖沼及び下流側を含めた利水状況の示された地図を用意し、その上に、市街地、農業地域、工業地域、自然地域の現況と将来構想を画き、下水道区域、浄化槽区域等を放流先水域条件及び財政上の課題に基づいてそれぞれ設定する。
 ただし、合併処理浄化槽の設置を現状のように希望者のみという方法ではなく、計画的に面整備とする行政手法の導入が必要である。
 同時に区域内の未規制小規模事業所排水の浄化槽活用処理も十分検討の余地があろう。
 このような合併処理浄化槽の計画的設置が可能となれば、装置の供給、設計施工から維持管理、法定検査まで、一貫した実施体制がより容易に成立することは明らかであり、汚泥処理対策も計画的に行い得るであろう。
 現在の生活排水対策ならびに水環境保全対策の立ち遅れは、各種の法制度に従った方策を地域実態と無関係に、また、長期計画不十分なまま実施してきた結果である。
 このような状況から脱却し、科学的な行財政の改善、合目的な水環境対策を講じる最も容易な手段は、いかに早く単独処理浄化槽を廃止して合併処理化するかである。