農業集落排水事業の現状と展望

岩手県土地改良事業団連合会
専務理事 菅原邦雄


 高度経済成長を契機として、農村地域の安い土地と労働力を目当てに、企業進出とともに一般住宅の建設が農村地域で行われるようになり、農村地域の美しい景観が破壊されたり、住んだ水辺で遊ぶ子供たちの姿が徐々に見られなくなりました。
 このことは、工場排水や家庭雑排水の農業用水路への排出、様々な不用品の不法投棄等が主たる要因であります。
そこで、農業用水の水質保全を主目的とした、「農業集落排水事業」が昭和58年度からスタートをしたが、現在は生活環境整備が主目的に考えられているが、そもそもは水質保全を目的とした事業であった。
 本事業は都市部の公共下水道を農村地域等の散居部の合併浄化槽との、中間地域である農村集落を対象とした事業であります。
 県では、平成6年度に「全県域汚水適正処理構想」を策定し、更に平成9年度に見直しが行われた。それによると本事業は県下全市町村において、667地区で事業の実施が計画されている。
 このうち、平成11年度までに着工された地区は、33市町村で90地区となっており、その状況は戸数で約2万3,000戸、処理人口で約11万6,000人となっている。
 なお、近年における新規着工地区の状況は、表1のとおりで、平成6年度頃から順調に伸びて来た事業も、平成10年度を境に下降線を辿り、平成13年度には1地区に急降下する模様である。その原因は市町村財政のひっ迫によるものと思われる。

[表1] 近年における年度別新規着工地区数の状況
年 度 平成5年度 平成6年度 平成7年度 平成8年度 平成9年度 平成10年度 平成11年度 平成12年度
地区数 7 9 9 10 8 10 6 6

 また、今後の展望についてでありますが、平成22年度を目標年次として、県が改訂した「岩手県全県域汚水適正処理構想」によると、目標年次の平成22年度には、県民144万人の80%に相当する115万人に対しての、汚水処理施設を整備する計画になっている。
 その事業種別は、公共下水道から合併浄化槽まで様々になっているが、その内訳は表2のとおりとなっている。
 このうち、農業集落排水での整備は、16.8%に相当する19万4,000人を対象に計画されているが、現在のような経済情勢では目標の達成は難しいものと思われる。
 しかし、生活環境施設の中では、最優先しなければならない施設であることから、地方分権が叫ばれた時でもあり、各地方自治体の創意工夫に期待しているところである。

 
[表2] 「岩手県全県域汚水適正処理構想」    (単位:人、%)
事業種別 対象人口 平成8年度 平成17年度 平成22年度
公共下水
(うち特環下水)
990,144
(89,230)
389,156
(4,980)
39.3
(5.6)
735,460
(68,359)
74.3
(76.6)
845,076
(78,725)
85.3
(88.2)
農業集排 303,414 38,935 12.8 145,583 48.0 194,407 64.1
漁業集排 39,884 6,780 17.0 18,302 45.9 25,162 63.1
コミプラ 5,159 741 14.4 4,149 80.4 5,159 100
小規模 1,739 - - 290 16.7 350 20.1
合併処理 102,660 105,282 103 88,371 86.1 82,316 80.2
合 計 1,443,000 540,894 37.5 992,155 68.8 1,152,470 80.0