「被災地における浄化槽について」

岩手県沿岸広域振興局保健福祉環境部
主任 福本 久仁竹


 公益社団法人岩手県浄化槽協会並びに会員の皆様におかれましては、浄化槽の普及促進や適正な維持管理の推進等、本県の浄化槽行政の推進に特段の御理解、御協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
また、この度は貴会報に寄稿する機会をいただきまして、誠にありがとうございます。

 私は東日本大震災津波後から浄化槽行政の担当をさせていただいておりますが、震災から現在までの沿岸被災地(釜石市・大槌町)の浄化槽について、所見を述べさせていただきます。

 今回の東日本大震災津波において、釜石市及び大槌町を含めた沿岸市町村は多くの居住地等が甚大な被害を被りました。その中でも多くの浄化槽は槽内清掃、ブロワ交換で再使用できるなど、特にも震災に強い、工事及び復旧工期が短期間で済む等、これからの早期震災復興に向けて浄化槽の果たす役割は非常に大きいものがあると感じているところです。

 仮設住宅の浄化槽は、その緊急性から地上設置又は半地下での設置が大半を占めております。
地上又は半地下設置は浄化槽本体及び配管の一部が露出してしまいますので、冬季間の凍結防止のための対策がされております。また、保守点検のため点検用歩廊(多くは単管パイプにキャットウォークを組んだ構造等)の設置をしておりますが、高所、狭いスペースでの作業が伴いますので冬季の足場凍結による滑落等には細心の注意が必要です。これからの季節は熱中症による対策も必要になってくると思いますので、会員の皆様におかれましては健康管理に十分配慮し事故のないよう作業を進めていただければと思います。

 一方、東日本大震災津波以降の釜石市、大槌町における平成23年度の浄化槽届出状況は約480件あり、このうち約9割が被災者の仮設住宅建築に伴う浄化槽の設置で、共用開始時には様々な問題が発生しました。
 保守点検契約が遅れ、一定期間維持管理が行われなかったことや浄化槽を使用したことのない入居者による異物混入又は浄化槽の不適切施工等により浄化槽機能が発揮されず水質悪化を招いたケース等がありました。
 これについては、県と貴協会及び会員の皆様との震災時における協定を締結することが非常に重要であると感じているところです。

 最近の沿岸被災地では国土交通省による復興道路(三陸沿岸道路)、復興支援道路(宮古盛岡横断道路、東北横断自動車道)及び被災市町村における高台移転に伴う土地造成や港湾・河川・農地・防災林造成といった様々な災害復興工事が進度を高めてきており、これに併せて被災者の新築住宅・店舗や仮設店舗・事務所及び災害復旧工事関係の作業員寄宿舎等の建築に伴う浄化槽が多くなってきております。
 専用住宅の浄化槽に比べ、仮設住宅を含めた被災地における浄化槽の多くは人槽が大きく、適切な頻度で計画的に保守点検を実施する必要があります。

 環境省では平成24年3月に「災害時の浄化槽被害等対策マニュアル第2版」が事例集と併せて策定されました。
 前述の懸案事項も網羅した内容で予防的な取組み、応急対策、復旧対策、二次災害への対策といった災害時の各関係機関の役割と取組みが明確化されております。
 今後に向けて、情報共有、体制強化といった関係機関との連携を密にし、生活衛生の確保及び公共用水域の水質保全を図り、被災地の早期復興に向けて努めて参りたいと思っているところです。

 最後になりますが、震災復興に伴う新たな街作りに浄化槽は非常に有効な設備であります。
 地域の実情に合った下水道、農業集落排水施設等を含めた包括的な整備目標を定め、浄化槽の普及啓発や適切な維持管理を念頭に持続的な汚水処理サイクルを構築する必要があります。
 そのためには貴協会及び会員の皆様からの御尽力は元より、より一層の御協力と御支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。