「水質改善提言委員会に携わって」

岩手県環境保健研究センター
衛生科学部長 菅原 隆志


 新年、明けましておめでとうございます。
 水質改善提言委員会に携わって、伊澤委員長をはじめ委員の皆様、岩手県浄化槽検査センターの事務局の皆様には大変お世話になりました。私自身は、今年度で定年退職になりますので、委員の職を退任することになると思います。5年間という短い期間ではありましたが、大変ありがとうございました。
 今回、会報「みず」への寄稿の機会をいただきましたので、この約5年間を振り返りつつ、今までの浄化槽等への関わり等も含めて感じたことなど記してみたいと思います。
 私が委員となったのは、まさに東日本大震災が起きた年でした。当時私は、環境保健研究センターの環境科学部に所属し、環境水の分析に携わっていました。震災後、三陸沿岸の河川水や土壌、湾内の底泥等を採取するため、たびたび三陸沿岸を訪れました。がれきがまだまだ残る住宅地であった場所の土壌、採泥器で採取すると髪の毛が引っ掛かってきた大船渡湾内の底泥、津波などなかったかのように普通に流れる河川水、震災の年は、いろいろな検体を採取しました。まだ道路が完全でなかった頃でしたが、仮設住宅の建設は急ピッチでした。仮設住宅では、下水道や集落排水処理施設より迅速に設置できる浄化槽が数多く採用されていました。応急仮設住宅浄化槽は緊急時であったため地上設置型が多かったようです。種々問題を抱えながらの維持管理であったことを検査センターの方から聞きました。その年、浄化槽検査センターでは、「応急仮設住宅浄化槽の処理水質改善に向けた課題について」と題して、仮設住宅浄化槽に関するデータを取りまとめています。その結果を水質改善提言員会では提言として取り上げましたが、課題として①ポンプ流入による影響、②メーカー、形式ごとの違い、③使用上の問題、④施工上の問題、⑤水温の問題等を指摘しています。浄化槽検査センターでは、使用上の問題である油脂類、多量の洗剤、夾雑物の浄化槽への流入を改善するため「浄化槽パンフレット」を作成し、仮設住宅全戸へ配布しています。震災時、通常の業務ですら忙しかったにもかかわらず処理水の改善に努力されていたことは、大変すばらしいことだと思いました。また、最も価値があると感じたのは、岩手県が採用した浄化槽に対する発泡ウレタン吹付による断熱効果に関するデータを取りまとめたことです。浄化槽等の処理能力には水温は重要なファクターとなります。冬季の気温低下時の発泡ウレタン吹付の断熱効果を明らかにしたことは、今後、仮設住宅が建設されるような場面では、貴重なデータになるものと思います。
 水質改善提言委員会では、毎年現地の視察を行っています。忘れられないのは、やはり平成24年度に行った仮設住宅浄化槽の視察です。


 陸前高田市内の半地下設置浄化槽と地上設置浄化槽の2基でしたが、11月中旬とはいえ寒風吹きすさぶ大変寒い日でした。まさに仮設住宅浄化槽の水温に係る断熱効果の現場を視察させていただいたものと思っています。半地下施設については土盛り等の措置が施され、対策がなされていました。地上設置施設については、まさに発砲ポリウレタン吹き付けの断熱施工を施した施設でした。寒風の中に配管系は露出部分もあり、維持管理には困難を伴うものと感じられました。しかし、当日の処理水は問題なく処理され、担当の方々の技術力の高さが感じられた施設でした。断熱に係る水温の効果は視察だけでは観察されませんでしたが、まさに貴重なデータを生み出した工法を目の当たりにさせていただき、忘れられない体験となりました。
 私が保健所で浄化槽業務を担当していたのは、まだ江刺保健所が存在していた平成2年度から平成5年度の4年間でした。当時は、いわてクリーンセンターが江刺に建設されることが決定した頃で、住民説明会やら管内の廃棄物処理施設の指導やらで多忙を極めていた頃です。そんな中、浄化槽検査センターの11条検査に同行することは技術的な話もできて非常に楽しい時間でした。自分でも努めて管内の浄化槽の立ち入り検査を実施するようにしていましたが、当時はまだ単独処理浄化槽が多かったように記憶しています。今、水質改善提言委員会に出席し浄化槽施設の構造等に係る資料を見ると、高度処理すぎる施設もありますが、技術の進歩をうかがわせる施設が非常に多いと感じています。処理水質についても当時では想像できないほどきれいに処理されていると思いました。もっとも水質改善提言委員会で取り上げる施設は問題施設が多いので、そこで見る水質は当時自分が見ていた透視度に近いものもあり、維持管理の難しさを再確認させられています。水質改善提言委員会では、11条検査で問題のあった施設を取り上げ、改善を検討しますが、その年のトピックスとなる問題等を行政に対し提言することも重要な業務です。その中で、26年度に取り上げた駅等に隣接する公衆トイレの問題は、その特殊性もあり、施設の人槽算定等から考えて重要と思われました。今後、三陸沿岸の復興がさらに進む中、参考になれば良いと思う問題でした。いずれにしても、施設が高度化すればそれに伴う維持管理技術も高度になると思います。浄化槽協会の皆様の技術力向上は必要不可欠なものと思います。

 環境保健研究センター環境科学部に所属していた頃、事業場排水等も分析していましたが、問題になるような排水はほとんど出てこないのが現状でした。よく言われることですが、環境水に対する負荷は生活排水がかなりの部分を占める時代になってきています。下水道も集落排水処理施設も重要ではありますが、浄化槽の存在は、今後の環境水を考える場合、カギを握る施設になることは間違いありません。浄化槽協会の皆様や浄化槽検査センターの皆様と行政が連携し、浄化槽の適正な維持管理を推進することで、一層の環境保全が図られることを期待しています。