「浄化槽の法定検査に思うこと」

(公社)岩手県浄化槽協会
理事・浄化槽法定検査委員会委員長 谷藤 長利


1 はじめに
 私こと、縁あって2014年から公益社団法人岩手県浄化槽協会にある法定検査委員会の委員を仰せつかり、昨年8月からは同委員長に選任をいただいて半年が経過しました。
 私と浄化槽の出会いは、1983年に花巻保健所へ配属になった時で、いわゆる小型合併処理浄化槽は登場しておらず、合併処理浄化槽は処理規模が51人槽以上とされ、単独処理浄化槽は腐敗タンクに平面酸化や散水ろ床を組み合わせたものなどといった頃でした。その様なところで一緒に立入検査をし、浄化槽の管理者等と話をし、実地に採水を行うなど、環境衛生に携わる者としてのイロハから手ほどきをいただいた上司が、長い間浄化槽協会の理事や法定検査委員会委員長などを担ってこられた前伊澤委員長だったこともあり、今般その後を担うことになったことに何かしらの縁を感じつつも、気の引き締まる思いでおります。幸い、今期の法定検査委員会には経験豊富な委員の皆さんが引き続き就任され、加えて県の各担当の皆さんにも参加をいただいており、こうした方々に支えていただきながらその職を務めていきたいと思っております。引き続き皆さんのご協力・ご支援の程をよろしくお願いいたします。
 前置きがながくなりましたが、今回「みず」へ寄稿する機会をいただきましたので、この場をお借りし、私なりに、あらためて法定検査が果たしている役割やこの検査を担う検査員の方々をはじめ関係する皆さんに期待すること等々、思うところを書かせていただければと思います。


2 法定検査への理解を深め浄化槽の信頼をより確かなものに
 小型合併処理浄化槽が普及をし、公共用水域の水質保全を担う設備としてその位置付けが確かなものになるにつれ、国においては浄化槽法を改正し、単独処理浄化槽の新設(2002年)や維持管理に対する罰則の強化(2005年)などを行いました。このことにより、市町村設置型や個人設置の浄化槽への設置費補助と併せ、浄化槽をとりまく制度面でもその公的な性格を支える環境が整ってきたのですが、浄化槽に関わる者としてはこうした改正を待つまでもなく、浄化槽がもつ機能が十分に発揮できるよう、施工はもちろんのこと設置後の適切な保守点検や清掃という維持管理の大切さについて、設置者はもとより設置や維持管理を担う関係者への周知に努めてきました。
 しかしながら、全国的にみると依然として「低い法定検査受験率」が課題となっているのも現実で、このことが浄化槽への信頼を低下させてはいないかと危惧をするものです。こうした状況下にあって、県内では早い段階から指定検査機関である岩手県浄化槽検査センターと行政が連携し、基本となる台帳の整備や未受験者への通知・指導、検査業務の効率化等々に取り組み、さらに処理水のBOD検査導入に向けての準備を進めてきました。BOD検査については、国との事前調整を経て、先ず2005年9月から市町村設置型を対象に試行し、翌年度には全面的にBOD検査を開始しました。また、これと併行してより客観的で判りやすい検査結果を提示する工夫、機能を発揮できていない等の課題を抱えた浄化槽をフォローする二次検査のしくみ、また検査の精度管理などにも取り組んできたところです。
 BOD検査の導入から丸10年を経過し、この間にも検査機関として検査機器等の充実や検査の平準化をはじめとした法定検査に関わる体制の整備、また二次検査の着実な運用等にも努めていただいています。こうした不断の積み重ねの結果、法定検査の受検率が常に全国トップクラスを維持してきているともいえ、この点を「岩手の強み」として、浄化槽の法定検査に対する理解を深めていく努力を継続していただければと思っています。
 その一方で、年々減少してきているとはいうものの、いわゆる11条検査について年間400件を超える受検指導通知がなされ、この通知を受けて受検申込みや休廃止の届出につながったのが約5%程度で経過してきていることは、一部とはいえ無視できない数字と考えています。引き続き検査機関と行政とが協力しながら、浄化槽設置者等に対し、浄化槽を使用するうえでの維持管理、法定検査が大切な義務であることを啓発もしながら、県内から未受検の浄化槽が無くなるよう指導を徹底していただければとも思っています。


3 法定検査の結果を生かしてつなぐ
 岩手県の浄化槽検査センターでは年間約5万基の浄化槽を検査し、設置者(管理者)に浄化槽の維持管理状態を判定して知らせていますが、平成27年度の結果を見ると「不適正」と判定されたものが7条検査で1.1%(24基/2,199基)、11条検査で2.1%(899基/43,212基)となって、概ね毎年同様の判定傾向になっていることなどから、検査後の適切な保守点検や設備の改善等につながっていると考えられます。
 また、水質の改善が見られずにその原因が不明など、処理水のBODが大幅に処理目標水質を超えるものや「不適正」判定が継続しているものは、行政機関による指導、先述の浄化槽検査センターが行う二次検査による追跡等で、さらにその改善を促していくことになり、これまで二次検査を行った中では、過負荷になっていた店舗関係の浄化槽について「水質改善提言委員会」の審議を経て、行政への人槽算定方法などの改善提言につながってもいます。
 もちろん、「適正」や「概ね適正」と判定される浄化槽が多いのですが、こうした検査結果をその後の管理や改善に出来るだけ生かしていくように、関係者へよりわかりやすく伝えてフィードバックしていくことが大切で、加えて、ここで得られた知見を関係者の研修等に活用できれば、保守点検や設備改善等の技術力向上にもなっていくことが期待され、惹いては浄化槽の信頼をより高めていくことにもなると考えています。
 既に、保守点検業者を対象とした「技術研修会」、市町村等の浄化槽行政担当者を対象とした「維持管理研修会」や小学生を対象にした「浄化槽出前講座」等々、浄化槽検査センターの職員が担当しての啓発、研修活動などが行われていることを御存じの方も多いと思いますし、こうした社会貢献を通じて浄化槽の普及啓発を行うことも意義あることと考えています。


4 おわりに
 人に例えれば「毎年の健診」に該当する法定検査は、汚水を浄化する微生物が最適な環境で働くことができているか、不具合を生じる兆候が表れてはいないか、また低下していた機能が回復しているかなどを確認する機会になります。日々の検査や日常の保守点検は時に単調な作業に思えるかもしれませんが、その意義をあらためて思うと、浄化槽と会話をするような作業を心掛ければ、些細なことにもヒントを得て、様々な気づきを知見として活かしていくこともできると思われます。法定検査でいえば、限られた人員での検査業務をこなす苦労はあるでしょうが、常に意識をもって日々の検査に当たり、その結果をわかりやすく伝える、啓発・研修活動にも積極的に取り組んでいくことによって浄化槽に関わる諸氏の理解がさらに深まり、それぞれの協働も良い方向に進んでいくものと期待をしています。
 最後に、県内の浄化槽に関わる関係各位と検査員の日頃の努力に敬意を表し、信頼される浄化槽を確かなものにしていくべく、ともに取り組んでいけたら幸いに存じます。