「浄化槽を担当して」

岩手県宮古保健所 環境衛生課
技師 岩渕 直幸



 公益社団法人岩手県浄化槽協会及び会員の皆様には、日頃から、浄化槽の普及啓発、適正な維持管理の推進に御尽力を賜り深く感謝申し上げます。また、この度は、会報「みず」への寄稿の機会を頂きありがとうございます。

1 トイレの思い出と浄化槽
 幼いころの実家の排水事情を思い出してみれば、風呂や台所などからの生活排水は未処理での放流、トイレは汲み取り式で、近所の畑では、汲み取られたし尿の散布が、普通のこととして行われていました。 そのころのトイレといえば、鼻をつくような臭いがあり、ハエ取り紙がぶら下がっていて、暗くて汚い場所だと思っていました。
 このような我が家のトイレですが、平成の半ばに水洗化したことにより、とても快適な空間に一変して驚いたのを覚えています。また、その頃から、近隣の家庭の水洗化が進み、畑にし尿を散布する人や未処理の生活排水を出す家庭が減り、生活環境が衛生的で快適なものとなっていきました。
 今にして思えば、これは、浄化槽のひとつである農業集落排水処理施設に接続したことにより実現されたものでしたが、保健所で浄化槽の担当になるまでは、浄化槽についてほとんど知らずに過ごしてきました。

2 浄化槽の担当になって
 保健所で浄化槽の担当になり、浄化槽について勉強する中で、一般家庭用の小型浄化槽が広く普及していることを初めて知りました。実家の排水を処理する農業集落排水のように、集合処理を行う中~大型の浄化槽もあることを学びました。また、浄化槽の多くは地下に設置されるために災害に強いほか、設置工事の速さから仮設住宅などの排水処理にも適用例が数多くあることを知り、今後も浄化槽の活躍の場は広がっていくのだろうと感じました。
 浄化槽は、様々な環境に対応できる便利な排水処理施設である一方で、その機能を十分に発揮するためには、適切な設置と維持管理が必要となります。

3 設置計画の審査について
 浄化槽を設置する際は、建築主事及び保健所が、浄化槽の設置計画が適切かどうかを審査します。建物の使用用途や人槽算定、浄化槽の構造、配管、放流先に至るまで、数多くのチェック項目があり、建築主事や浄化槽施工業者などと意見を交わしながら、各基準に適合しているか確認しています。
 特に、建物の使用用途と人槽算定の根拠については、設置計画の段階で十分に検討しておかなければ、使用開始後に、浄化槽の処理能力が足りなかったといった事態になりかねません。
 設置計画の審査は、保健所の浄化槽に関する業務の中でも多くの事務量を占めますが、浄化槽トラブルを未然に防ぐため、緊張感を持って取り組んでいます。

4 維持管理の指導について
 浄化槽の維持管理が適切に行われていることを確認するため、設置者は法定検査を受検する必要があります。法定検査結果は、浄化槽設置者だけでなく保健所にも送付されますが、毎月、数件の「不適正」判定の浄化槽が報告されているのが実情です。浄化槽検査センターの助言と保守点検業者の対応により速やかに改善されるものもありますが、中には、解決が容易ではない事例もあります。例えば、建物の用途変更や増設などで流入負荷が増え、水質が低下しているケースでは、より大きな容量の浄化槽に入れ替えられればいいのですが、費用の問題もあり、簡単に交換できない場合がほとんどです。こうなれば、根本的な解決は難しく、その場にある設備での解決策を模索するしかありません。浄化槽の維持管理指導は、保健所の対応だけでは限界があり、現場をよく知る浄化槽検査センターの検査員や保守点検業者の方々のアドバイスに助けて頂くことも多くあります。

5 おわりに
 浄化槽の適切な維持管理には、法定検査の受検率の向上が不可欠です。本県の11条検査受検率は、近年、全国トップクラスを維持しています。これは、貴協会及び会員の皆様並びに保健所の先輩方による努力の成果だと考えています。これを将来の浄化槽行政に引き継いでいけるよう、担当者として気を引き締めて日々の業務に取り組みたいと思います。
 浄化槽の適切な維持管理と法定検査受検率の向上のため、貴協会及び会員の皆様の御指導、御協力を賜りますようお願い申し上げます。