「思いつくままに」

岩手県釜石保健所
水車 正洋


 微生物によって汚水が分解され無機化されることによって浄化する機能を持つのがし尿浄化槽です。
 しかし、汚水の100%が浄化されることがないことを設置(管理)者はあまり理解していないものと思います。除去(浄化)率が、65%程度のものが多いのです。(管理が良くなされている単独の長時間ばっ気方式では90%を超えるものも時々みられますが。)
 さて、汚れの単位として、BOD(生物化学的酸素要求量)が使用されていることは常識となっています。
 「生活環境の保全に関する環境基準」が河川の場合は、別表のように定められています。ここに環境保全ということで、BOD10ppm以下が最低の基準となっています。
 一般家庭用の20人槽以下のし尿浄化槽の場合、BOD除去率65%以上、BOD90ppm以下となっています。また、これが90%以上の除去率になるとBOD26ppm以下となりますが、別表の類型E(環境保全)の10ppmの約3倍となっています。このことは、し尿浄化槽の能力をいかに引き上げても流水のない所へ放流することはできないことになります。
 類型C、BOD5ppm以下の河川へ放流する場合、し尿浄化槽の放流水のBODが90ppmなら、類型EのBOD10ppm以下になるための河川の水量が放流水のa倍とすると、
   (90+a×5)/(1+a)=10
 これからa=16となり16倍以上の水量がないと環境保全ができないことになります。これが維持管理の悪いし尿浄化槽の場合、流入より高いBOD300ppmで放流されることもあります。同様に計算すると58倍の水量がないと環境の保全ができないことになります。
 放流先水路の管理者が放流承諾(許可)を設置者へ出す時に総量規制的な考えで規制しないと水路がドブ川になり得ます。家庭雑排水+し尿浄化槽放流水の総計の汚れ具合と水路の水質、水量から計算してBOD10ppm以下としなければなりません。
 BODの測定は、20℃5日間に消費される酸素量から計算されます。冬期間は水温が下がるため見かけのBODは下がります。夏になって水温が20℃以上となると見かけのBODは上がります。(生物によって汚物が分解されるには20℃で20日以上かかるといわれています。水温が高いと微生物の活動が高まり汚水の分解が速くなり、低いと遅くなります。このことは、同じドブ川で夏悪臭を発し、冬は発しないことからもわかります。)
 また、流れが速ければ5日間もかからずに海へたどりつきます。そのため流れが速いほど見かけのBODが下がります。県内の河川では北上川を除いては100kmを超える川がありません。河川の流速が人の歩く速さなら北上川を除いて、一日もかからないで太平洋に流れ出ます。(汚水を流しても、河川においてはあまり浄化されずに海へ流れ出ます。閉鎖系の湾へ入ると、汚れが溜まり湾が汚れていきます。)


別表
類型 BOD DO 利用目的の適応性
AA 1ppm以下 5ppm以下 自然探勝等の環境保全
ろ過等によって簡易な浄化操作によって水道に利用できる
A 2ppm以下 5ppm以下 沈殿ろ過等の浄水操作によって水道に利用できる
ヤマメ・イワナの生息できる水系
B 3ppm以下 5ppm以下 サケ科魚類、アユ等の生息できる水系
C 5ppm以下 5ppm以下 コイ、フナの生息できる水系
E 10ppm以下 2ppm以下 国民の生活において、不快感を生じない限度(環境保全)

 人間が一日に流し出す汚水は、BOD量で40gといわれています。このうちし尿系は13g、家庭雑排水系が27gです。し尿系は13gのうち65%除去されて4.6gしか流れ出ませんが、家庭雑排水系は27gそのまま流れます。この辺のところを河川や都市下水路等の管理者は理解していただきたいものです。
 し尿浄化槽の適正な維持管理がされるためには、設置者の理解がぜひ必要です。そのため次の関係者がそれぞれの立場から努力しなければなりません。
 1.行政機関である保健所による事前指導、現場での指導、さらに設置者や維持管理業者等への講習会の開催
 2.(社)岩手県浄化槽協会の検査による現場での指導
 3.維持管理業者の適正な管理及び説明
 4.清掃業者の清掃前の点検と適正な清掃及び説明
 5.設計、施工者の適正な設計施工及び説明
 し尿浄化槽を新たに設置する場合は、建築基準法や廃棄物の処理及び清掃に関する法律の他に、昭和57年5月6日付環第83号岩手県環境保健部長及び土木部長通知「し尿浄化槽事務取扱要領及びし尿浄化槽指導基準」によって設置及び維持管理の基準が具体化され、その要点は次のとおりです。
1.し尿浄化槽を設置するときは
 (1)し尿浄化槽は原則として屋外に設置し、清掃や維持管理作業が容易に行うことができる場所とすること。(屋内に設置する場合は作業を行うに支障のない空間を設けること。)
 (2)し尿浄化槽の近くに水道の給水栓を設けること。
 (3)放流先水路は環境衛生上支障なく、かつ常時流水のある水路とすること。(あらかじめ放流先水路の管理者の同意を得ること。)
 (4)屋外配管の縦断面図(放流先までの水位差及び距離の明示)が添付書類として加わったこと。
 なお、構造基準第5に定める地下浸透処理式及び処理水を汲取りにするし尿浄化槽(循環利用も含む。)の設置は出来ないこととされたこと。
2.設置後の維持管理については
 保守点検回数が厚生省通知で1ヶ月に1回未満と定められているものについても、岩手県においては、1ヶ月に1回以上実施するよう努めることとされたこと。し尿浄化槽の清掃記録票が例示されたこと等であります。
 おわりに、し尿浄化槽に関係する方々が、それぞれのもつ義務と責任を果たすことによって、私達の生活環境と健康が保持されるものと思いますので、水環境の保全に努められるようお願いいたします。