岩手県釜石保健所
吉田 博
会報「みず」に寄稿の機会をいただきありがとうございます。今回は、前半で浄化槽法の施行に関してのこと、後半で浄化槽における流量の単位についてお話することとします。
昭和60年は、浄化槽法の施行、またあわせて政令、省令(厚生省、建設省)が数多く公布され、その運用通知等も含めるとけっこうボリュウムになります。そこで、みなさまにお願いがあるのですが、このように法的に整備されたことに伴い浄化槽に関する法令の内容を正しく理解していただきたいと思います。
日常の業務の中で、多くの設置者と顔をあわせていると思います。その中で設置者から浄化槽について聞かれることや、逆に設置者に必要なことを話さなければならないこともあると思います。例えば、厚生省令でお宅の浄化槽は、年何回以上保守点検が必要とされているとか。このような設置者との日常のコミュニケーションをとおして設置者(使用者)に必要なことを正しく理解してもらうように努めていただきたく、またそれが今後の業務を進めるうえでプラスになるものと思います。
今後、法令が改正されたとか、何々について告示されたとか、運用通知がでたとかの必要な情報は、すぐに浄化槽関係の月刊誌に通常掲載されますので、こういったものを利用していただきたいと思います。月刊誌としては、ご覧になっている方も多いと思いますが、財団法人日本環境整備教育センター発行の「浄化槽・コミプラ」あたりが適当だと思います。
次に、浄化槽に関する流量の単位についてお話したいと思います。ご承知のとおり浄化槽内の水の流れの考え方は、浄化槽を構成する各単位装置、例えば、ばっ気槽とか、沈澱槽とかで違ってきます。それでは、具体的に例をとりながら単位の話をします。
1.リットル毎秒(l/秒)
1秒あたり何リットルかということです。この単位は、浄化槽(管路は別)の設計には使わないのですが、維持管理において流量をバケツで測定するときに便利です。
例えば、返送汚泥量を知りたいとき、返送汚泥の管末に10リットル程のバケツをおき何秒で満杯になるかみます。10リットルのバケツが10秒で満杯になったとしますと、毎秒1リットル、1日に換算して86立方メートルになります。1日の流入汚水量がわかっていれば、汚泥返送率や、返送汚泥を含めたばっ気槽の滞留時間もわかります。返送汚泥を多くしますと、最終沈澱槽での汚泥の濃縮が得られず返送汚泥が薄くなります。また、押し出し流れのばっ気槽、特に高負荷に設計したものでは、滞留時間が足りなくなり、汚濁物質が充分に分解される前に最終沈澱槽に達してしまい処理水の悪化をまねきます。逆に、返送汚泥量を少なくした場合は、最終沈澱槽の汚泥界面が、上がってきて汚泥の流出がおこります。いずれにしても、汚泥配管のように、径に比べて少ない流量の場合、流量の目測は、以外とはずれるようですので注意が必要です。
2.リットル毎分(l/分)
1分あたり何リットルかということです。ポンプの能力の表わし方が、毎分何立方メートル、毎分何リットルというふうになっています。浄化槽では、リットルの方が使いやすいと思います。
例えば、原水ポンプが0.75キロワットだと、毎分300リットルぐらい揚水するだろうとか、給水栓をひらいたら毎分10~20リットルぐらいなので、共同住宅で、天気の良い午前中、一斉に洗濯をしたような場合の汚水量(時間最大汚水量)は、どれぐらいになるかとか考えるときに便利です。他に学校等の休み時間の汚水量等の推定とか、いろいろ応用できると思います。
3.立方メートル毎時(m3/時)
1時間あたり何立方メートルかということですが、これは、1日の排水流入パターンを想定したり、流量調整槽や沈澱槽の管理をする場合に使います。例えば流量調整槽において、汚水を24時間均等に生物処理槽へ入れたい場合、時間あたり何立方メートル送って、何立方メートル調整槽に戻すかとか、その場合、時間最大汚水量もしくはそれに近い量の汚水がどれだけの時間つづけて流入してきたら、調整槽は満水になってしまうかとか。また、最終沈澱槽において前段の生物処理槽に、時間最大汚水量が入ってきた時、最終沈澱槽内の水の上昇速度(水面積負荷)が大きくなって、汚泥が流出してしまわないとか、いろいろ考えられます。
4.立方メートル毎日(m3/日)
1日あたりの量で、ご承知のとおり、設計、維持管理の基本となるものです。
計画日汚水量により各槽の大きさも推定できます。ばっ気槽なら計画日汚水量の60%以上あるとか沈澱槽なら20%ぐらいだとか。もちろん設計のときの諸因子のとりかたで違ってきますが。
余剰汚泥量の推定にも使います。流入汚水量と流入BODを掛け合わせて、1日何キログラムのBODが入ってくるかをみて、このBOD量(正しくは除去BOD量)の何%が汚泥(乾物として)に変換されるかをみます。通常の活性汚泥では汚水が継続して入ってきておりある程度の量(負荷量)ならば、50%ぐらいとか、逆に少ない場合10%以下とか。実際10%程では、処理水のSSとして流出してしまう量が大きく影響して、汚泥がふえないという状態になります。
以上単位とそれに関する管理面について述べましたが、現場ですみやかに単位の換算をする必要があります。いちいち24(時間)や60(分)で、割ったり掛けたりしていてはめんどうなので、図に示すように流量換算図を使います。使い方は簡単で横に水平に線をひけば、その交点がそれぞれの流量単位(l/秒、l/分、m3/時、m3/日)での流量となります。例えば、毎秒1リットルのところから横に線をひけば、毎分60リットル、毎時3.6立方メートル、1日あたりでは、86立方メートルと読めます。この図に限らず浄化槽の管理をする場合、図とか表とかにまとめておくと便利な例があります。
いろいろわかりきったようなことを長々と述べましたけれども、自分は長いこと同じ浄化槽を管理しているので、いちいち流量を見なくともわかっている、特に支障はないと思っている方もいると思います。実際、それで充分なことが多いわけですが、流量をそれぞれの単位で考えることにより、いろいろ応用もできますし、高負荷施設とか放流基準が厳しいとかで、シビアな管理を要求されるようなところでは、役に立つこともあるのではと考えてお話しました。
これで話を終わりますが、今後浄化槽行政を進めるにあたり、みなさまの協力が不可欠です。どうぞ今後ともよろしくお願いします。