岩手県北上保健所
石倉 久夫
近年都市近郊の中小河川において、生活排水による水質汚濁が問題となっており、その原因の一つとして、維持管理不良な浄化槽からの放流水があげられています。
浄化槽は年々増加の傾向にあり、本県では60年度末で11,452基設置されておりますが、これらの浄化槽が適正に維持管理されなかった場合の影響は、誠に大なるものがある、と予想されます。浄化槽は従来「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」において一般廃棄物処理施設としてのし尿浄化槽という位置付けがされていた訳ですが、昨年の10月1日から浄化槽だけの単独立法としての「浄化槽法」が全面施行され、いくつかの点において浄化槽行政に改革が加えられました。
その中において、私共に特に関連のある改正点は、浄化槽保守点検業登録制度が導入されたことだと思います。当県においても「浄化槽の保守点検業者の登録に関する条例」が「浄化槽法」と同時に施行され、本年4月1日からは、登録業者でなければ、浄化槽の保守点検を業とすることができなくなりました。登録業者は本年3月末で79業者あり、所属する浄化槽管理士は142名を数えております。登録制度のネライとするところは、浄化槽の保守点検を行うためには専門的知識、技能及び相当の経験を有する者が、専用の器具、機械を用いて行うことが必要であることから、第一には浄化槽管理士の確保と、第二には保守点検用器具を整備することにより、浄化槽の管理を適正にすすめていくことにあると思います。特に後者については、これまで大した器具もなく、経験と勘だけで業を行ってきた業者も一部にはあったようですが、今後は保守点検用器具を活用しながら、科学的に浄化槽の保守点検を行うことが求められている訳です。保健所として浄化槽の立入検査を行う場合には、まず保守点検記録のチェックを行う訳ですが、用紙に項目はあっても、測定されていないことが時々見受けられます。点検器具は、あればそれで良い、というのではないので、充分な活用を期待したいと思います。
今回は、保守点検用器具のなかから塩化物イオン、溶存酸素、水素イオン濃度指数の各測定器具を取り上げて、測定上の留意点等にふれ、保守点検の一助にしていただきたい、と思います。
まず、塩化物イオンは、特に単独浄化槽において、適正に装置が機能しているかどうかを知る大切な項目であり、測定には大した時間もかからないので、必ず測定してもらいたいと思います。昨年度の浄化槽協会の検査において、洗浄水の過不足、という指摘が多く見られましたが、多量に洗浄水を使用した場合には、ばっ気室、沈澱室等における滞留時間が短くなって全体としての機能に支障をきたしますし、洗浄水量が少ないと、二次処理装置への負荷が大きくなり、放流水質が悪化します。中には、多量の洗浄水の使用によって放流水が一見きれいなのを良し、とするケースもごくまれにありますが、浄化槽はまさに浄化をする槽であり、単に水で希釈して流す施設ではないことを再認識しておきたいと思います。塩化物イオンの測定は、硝酸銀滴定法によることが多いようですが、この測定法は、終点がわかりにくい、という難点がありますので、処理水が汚れている場合には、滴定しない検体を並べて比較する、という工夫も必要と思われます。また場所によっては、洗浄水中の塩化物イオンの濃度が高いこともありますから、時々は洗浄水の塩化物イオン濃度のチェックも必要です。
次に溶存酸素(DO)の測定は活性汚泥法では不可欠な管理項目です。保守点検の技術上の基準でいう、適正な溶存酸素量としては、接触ばっ気室及びばっ気室ではおおむね0.3ppm(mg/l)以上、接触ばっ気槽及びばっ気槽では、おおむね1ppm以上とされていますので、これらの数値をメドに管理すればよろしい訳ですが、DOが0ppmで全く検出されない場合は、①BOD負荷の高い、②MLSS濃度が高い、③送気量が少ない、④水温が高い、等の処理条件が考えられるので、どの条件にあてはまるか検討しなければなりません。またDOが高濃度で検出される場合は、硝化作用が進行して汚泥の解体現象をひき起こしたり、沈澱室での汚泥浮上の原因となるので注意する必要があります。溶存酸素のDOメーターでの測定にあたっては隔膜電極法としての構造から、試料中の溶存酸素と電極付近でのそれとが平衡になるようにしなければなりませんからDOセンサーに一定以上の流速(6m/分以上)を与える必要があります。ばっ気による旋回流が弱いような場合には、DOセンサーを振りながら測定することが必要になります。またDOメーターの保守としては、電極の研磨と汚れの付着した隔膜の交換及び電解液の補充があります。これらについては、使用頻度にもよりますが、センサーの汚れに注意して早目に行う必要があります。
最後に水素イオン濃度指数(pH)についてですが、pHは活性汚泥微生物の生育に対して重要な因子で6~8の範囲が最も生育に適しており、過ばっ気状態になっていないかどうか、便器への薬剤使用の有無等のチェックが必要です。pHの測定では大した問題点はありませんが、測定値の信頼性を高めるためには、較正をできるだけ頻繁に行うことが大事です。
以上三つの測定項目、器具について留意点等を述べましたが、他の保守点検器具を併せて活用し、総合的な判断を行ってこそ、適確な保守点検が行えるものと思います。