浄化槽の歴史と性能

岩手県水沢保健所
佐藤 耕二


 先日NHK総合テレビ経済ジャーナルの生活排水についての番組を見ましたが、率直に言って、浄化槽の性能がずいぶん良くなったと感じました。いわゆる家庭用小型合併浄化槽の話ですが、千葉県のある町に設置した3基の家庭用合併浄化槽が紹介されました。放流水のBODは5~10ppm(mg/l)、透視度13~50㎝というものでした。
 浄化槽の歴史をながめてみると、明治44年前後に川崎のマツダランプ工場につくられたものが最初といわれています。明治の終り頃から西洋建築が普及するようになり文化も進んでくるにつれ水洗便所が現れてきました。当時は、その汚水は汚水だめを設けて汲み取り処分することになっていましたが、汚水量があまりにも多いためほとんど実行不可能でかえって不衛生な結果をまねいたようです。
 そこで大正9年には、地方長官が許可した浄化槽により処理されたものは河川などの公共の水域に放流しても差し支えないことになり、これに伴って専門家によっていろいろの型式の浄化槽が研究考案され、警視庁舎や地方の取締規則で設置手続や構造や性能が定められていくこととなりました。その構造は腐敗槽に二次処理装置として散水ろ床を組み合わせたものでした。昭和25年に建築基準法が制定公布され浄化槽の構造基準が新たに定められました。その内容は、多室型腐敗槽と散水ろ床と消毒槽を組み合わせた型式でいわゆる基準型と呼ばれるものです。しかし、基準型はろ床の維持管理が難しいこと、放流のためにポンプを必要とする場合があること、建設費が割高であること等の欠点があり、それを補う名目で特定行政庁の認定を得ていわゆる特殊型と呼ばれる浄化槽が設置されました。その種類は全国で200以上にも及びました。特殊型の腐敗槽の構造は変型2階タンクと見なされるものが最も多く二次処理装置はほとんど例外なく平面酸化方式を採用しています。中には腐敗槽流出水の大部分を地下に浸透させるものも出てきました。
 一方、基準型の改良とは別に活性汚泥法の住宅用浄化槽への応用が研究され、多くのものが建設大臣の認定を受けて実用化に移されました。昭和26年頃から住宅団地や大規模な学園、病院等に汚水処理施設が設けられるようになってきました。そしてこれらは全て便所汚水とともに雑排水を合併して処理する施設で、当初は散水ろ床方式が好んで設けられました。昭和31年厚生省が散水ろ床方式の小規模汚水処理施設の普及を図ることにし、昭和41年には中期経済計画で計画的に普及を促進することとなりました。その結果その方面の技術も進み、かつての散水ろ床方式に変わって活性汚泥方式が好んで採用されることとなりました。この様な過程を経てきた浄化槽ですが、放流水の水質が公共用水域の汚濁源として問題となってきてあらためて根本的に再検討されることとなりました。そして昭和44年に浄化槽の構造基準が建設省告示により制定されました。しかし浄化槽の普及が急激に高まり、公共用水域汚濁源としての比重が顕著になったことで、さらに改正の必要にせまられ、昭和55年に構造基準が改正され新構造基準として現在に至っているものです。
 当初の浄化槽は伝染病や寄生虫の伝播予防ということが重要な目的だったのですが、現在では水質汚濁防止が重要な目的となっています。従って新構造基準では、単独処理浄化槽では実績のあがらなかった平面酸化床方式や全ばっ気方式が廃止され、分離ばっ気方式では容量の拡大が行われ、合併処理としなければならない浄化槽の規模が従来の最低101人以上から51人以上まで引き下げられたのです。
 この様に浄化槽の歴史をみるかぎり、性能は飛躍的に向上したといえるわけです。
 しかし、これらの浄化槽が必ずしもいい状態にはありません。たとえば維持管理が十分でない、保守点検が十分でない、法制度が必ずしも明確でない、建設に当たって浄化槽を据え付ける時に色んな問題があるなど。あるいは、浄化槽は水質汚濁の原因の一つであるといわれるとか、浄化槽から非常に悪臭がでるとか、浄化槽の放流水が出るあたりに衛生害虫が発生するとか、浄化槽が下水道と同様に社会的に重要な機能を果たしているにもかかわらずとかく生活環境上の問題を引き起こしてきたわけです。これらの原因については、無届浄化槽がたくさんあり、水質検査もしっかりやっていない、維持管理もうまくいっていない、保守点検をやっている人も技術的にはどうなんだろう、施工をしている人も技術的にはどうなんだろう、ということが考えられるわけです。こういう原因をできるだけ多く取り除くための制度が望まれていたわけで、そしてできたのが昭和58年制定60年全面施行の浄化槽法ということになるわけです。
 こうなると、あとは浄化槽法に盛られた制度をいかに有効に働かせて浄化槽を名実ともに社会的に不動のものとするかということになるわけです。保健所では届出による浄化槽の完成検査を行うわけですが、その際に、その浄化槽の設置工事を行った浄化槽工事業者とこれから保守点検を行う浄化槽保守点検業者と浄化槽設置者(使用者)に必ず立ち会ってもらい検査を行っております。そこでは浄化槽工事の基準に基づいて届出どおり施工されたか確認したり、これからの保守点検が保守点検の基準に基づいて行われるかということを確認したり、これから設置者(浄化槽の使用者)が使用上の基準(使用に関する準則といわれている)に基づいて使用されることを確認したりするわけです。また使用開始までの間に岩手県浄化槽検査センターに検査の申込みを済ませておくようにしておくわけです。使用開始後6ヶ月後に検査されるということで、従来往々にしていわれていた施工は大丈夫かといったことも充分フォローされております。その他にも、浄化槽法に盛り込まれた制度にはいろいろありますが、これを十分生かすことによって確実に不適正な浄化槽が減ってきております。
 従来浄化槽はいわゆる下水道が建設されるまでの間のつなぎの施設としての役目しか与えられていなかったことが浄化槽の評価を低いものにし周囲からはとかく悪者扱いをされてきた原因の一つでしょう。しかし昭和55年に浄化槽新構造基準ができ、浄化槽法ができ、厚生省には浄化槽対策室ができました。即ち浄化槽は下水道と全く同じものと考えられるところまできました。家庭用合併浄化槽はミニ下水道であり、住宅団地の合併浄化槽や地域し尿処理施設と呼ばれるものや、農村集落排水処理施設と呼ばれるものは、一定の地域の集落の下水道ということができると思います。従来の下水道は莫大な金がかかるし計画がなかなか進みません。さらに水質汚濁の進行が著しく深刻な状態になってくると下水道一辺倒という考えは当然ながら反省されることとなりまして、現在ではこれらの浄化槽のいろいろな方法を組み合わせていかに効率よく効果的にしかも実現できるシステムを作るかということに考えは変わってきています。家庭用合併浄化槽に補助金を出す(厚生省では62年度に1億円予算をとっている)こともその現れです。浄化槽の役割は公共用水域の汚濁防止の点で今後ますます重要なものとなってきます。
 最後になりますが、浄化槽の性能は飛躍的によくなりました。しかし、やはりその性能を生かすのは使用者、保守点検業者、施工者が十分にその役目を果たすことが前提となっていることを忘れてはならないと思います。そのために協会の会員の皆様が今後ますますご活躍されることを期待いたします。日頃浄化槽行政に携わって私なりに感じていたことを思いつくまま述べてみました。今後ともご援助ご協力の程よろしくお願いいたします。