岩手県盛岡保健所
吉田 盛司
浄化槽行政に携わってまだ2年目でありますが、この2年間の間に感じた点をこの場をお借りして述べさせて頂きます。
1.保健所の役割
まず、浄化槽行政における保健所の役割ですが、大きく分けて2点あると思われます。まずその一つは、浄化槽設置前における書面審査であります。建築物の建築確認時に設置者(浄化槽管理者)の方が建築主事に建築しようとする建物の確認申請を提出します。その付帯設備としての浄化槽についての意見照会が建築主事から保健所長にあるわけです。ここで、浄化槽の設置に対する建築主事と保健所担当者の立場の違いが生じます。すなわち、建築主事の立場は浄化槽とは建築物の一付帯設備に過ぎず、建築物本体の強度などのようなこととは異なり、完成検査が終了すれば、あとの維持管理などはその興味の範疇にないわけであります。その点、環境サイドの立場の我々は完成後の維持管理がこの先10年20年うまくいくのかということが最も重要な点であり、こういう観点から設置される浄化槽を見るわけです。もちろん設置される浄化槽が浄化槽法等の関係法令に合致しているかどうかがその審査の要素であることは言うまでもありません。
建築サイドとの立場の違いを象徴するこういう事例がありました。あるモデル住宅(展示会終了後は将来建て売りとして売買される)の完成検査が終わり完成検査済証交付後に浄化槽が設置されていることが判明し、もちろん無届浄化槽以外の何物でもないわけでありますが、事後に浄化槽の届出を提出させたことがありました。建築主事は当然完成検査を行っているわけでありますから、汲み取りで建築確認申請が出されていて水洗トイレとなっていれば、すぐに無届であることが判るはずですが、先ほども書いたとおり建築サイドでは環境サイドとは違い衛生設備に対してはあまり関心がないのです。にもかかわらず、意見照会の際環境サイドからの意見(将来の維持管理を念頭に置いた意見)、例えば人槽算定の計算方法とか後々の維持管理を考え、より良い浄化槽の設置方法などについて意見を述べても度々その意見が反映されず建築確認がおりてしまう事例がありました。
我々は建築主事が、設置される浄化槽について、維持管理も含めた環境サイドの意見を求めているのだというふうに考えており、これに基づいて書面審査を行い意見を述べているわけで、より良い住環境を作るという同じ目的を持つものとして保健所の意見を尊重して欲しいものです。
保健所の役割の第2点目ですが、設置後の維持管理等に対する行政指導及び浄化槽の監視であります。盛岡保健所管内の浄化槽はおおよそ3000基(平成元年度末)でありますが、法定検査の受検率は11条検査では約50%弱、7条検査では50%強となっております。その不適正の基数は11条検査で234基、7条検査で5基であります。合わせて239基に対しては少なくとも監視及び指導を行わなくてはならないわけでありますが、その体制が恥ずかしい話ですがないのであります。もちろん、全然機能していないというような悪質なものは指導しているわけですが、なにせ浄化槽の担当者は県内の他の保健所同様一人、それも他の業務も兼任している状況なのです。監視率を高める事は誰もが望んでいるわけであり、一番そうしなければならないと感じているのは保健所の各々の担当者であります。
そのための体制づくりを是非作っていかなければならないと思います。
2.浄化槽設置時における工事業者及び維持管理業者の役割
浄化槽の設置時において、浄化槽の設計業者(工事業者及び維持管理業者等)の担う役割は、その設置工事そのものの他に、将来に向けた維持管理の観点からもたいへん重要であると思われます。しかし、残念ながら業者によって、設計に対する取り組みが全く違うことがよく見受けられます。
ご存知のとおり、浄化槽の設計の基本となるものは現在、JISA3302―1988及びその基準解説であることは言うまでもありません。
こういった基準があるにもかかわらず、その基準を無視し平然と浄化槽の設計を行う業者が多く見受けられます。そのような業者に限ってJIS基準に記載されている「ただし、建築物の使用状況により、表が明らかに実情に添わないと考えられる場合は、この算定人員を増減することができる。」という一文を自分の都合のいいように解釈しているのであります。「明らかに実情に添わない」場合に限った表現であるにもかかわらず、観念的に、その理論的、実践的な証明を伴わず「明らかに実情に添わない」と勝手に解釈している業者が多いのであります。経済的負担を伴うものであり、建築主との板ばさみに合うのは理解はできますが、浄化槽の設置に関して自分達が、環境保全の一翼を担っているという自負を是非持って頂きたいものであります。
将来にわたって適正に維持管理ができる浄化槽を設置するのだという考えの上に立ち浄化槽の設計、施工を行って頂きたいのであります。
3.最後に
下水道の普及率もまだまだ足踏み状態である現在、快適環境を維持し環境汚染とりわけ水質汚染を防止するための浄化槽の設置は今後も伸びていくものと思われます。
浄化槽の設置にあたり、その適正な施工及び維持管理が適切に行われるためには、建築(建築主事)、環境(保健所)、設計、建設(工事業者)及び管理(維持管理業者)サイドの協力体制が不可欠であると思います。
家庭用小型合併浄化槽設置に対する国庫補助制度も創設され、環境汚染が社会問題化するこの時期に、浄化槽の設置の基本目的をもう一度お互いに考え直し、浄化槽の設計、施工及び維持管理に関するより良い体制の整備が図られるよう関係各方面に働きかけて行きたいと考えております。