岩手県生活衛生薬務課
細越 健志
新年明けましておめでとうございます。
また、会報「みず」に寄稿の機会を下さり、ありがとうございました。
前の「みず」をみてみますと、保健所や当課の技術職の浄化槽担当者が寄稿しており、内容も技術的で高度なものが掲載されています。
私は、昭和64年(平成元年ではない)1月1日に事務職として県に採用され、現勤務地が初任地ですので、今回は技術的な内容は控えさせていただきまして、一風変わった内容になるかもしれませんが、私が浄化槽について普段感じていることを中心に述べてみたいと思います。
この会報をご覧になる方は、会員の皆様をはじめ、何らかの形で浄化槽に関わっている方が殆どであり、浄化槽をまだ見たことがないという方は、多分いないのではないかと思いますが、私はこの仕事に携わるまで、浄化槽という言葉は知っていても、実物は見たことがありませんでした。
浄化槽について最初に法令集やパンフレット等で勉強したときに、浄化槽に対するイメージを自ずとつかむことができたわけですが、そのイメージとは、『浄化槽とはいくつかの槽があり(当然ですが)、金魚の水槽のように空気をぶくぶく送り込む(専門用語(?)で"ばっ気"という)装置が付いている』というものでした。
しばらくしてから、やはり担当者は一度は実物を見た方がよいということになり、検査センター、協会員の方に同行し、市内の浄化槽を見て回ったわけですが、私はそのときに初めて見た平面酸化床方式の浄化槽に対する新鮮な驚き(喜び)を忘れることができません。
「こ、これが浄化槽か!?」
余りにもシンプルで無駄のない構造! まるで他の者に触れられるのを断固として拒むような威厳のあるたたずまい。
浄化槽というからには、何らかの槽があるはずですが、…よく見えない。
"ばっ気"は、…ない。
生まれて初めてこの方式の浄化槽を見た私は、その直前に見た接触ばっ気方式の浄化槽と比べ、その構造の違いに大いに驚き、また、認識を新たにしたのでした。
ところで、一般の家庭では、水洗化の恩恵を受けることができるのであれば、その手段として浄化槽だろうが下水道だろうが関係ないことかも知れません。浄化槽を使っている人の中には、自分は水洗便所なので、水洗=下水道であると思っている人もいるそうですから。
それでは、浄化槽がいったいどれくらい水洗化に寄与しているのかというと、現在、国民の約60%が水洗化の恩恵を受けており、その約半分、つまり国民の約30%が浄化槽による水洗化の恩恵を受けています。
このように、浄化槽は下水道未整備区域において、トイレの水洗化に大きな役割を果たしていますが、本県の場合、次の理由により今後ますます増加率が上がっていくのではないかと考えられます。
① 県民の水洗化要望の高まり(下水道の普及と浄化槽の普及は正の相関関係があると考えられる)
② 台所やお風呂からの生活雑排水が河川や湖沼の汚染原因の一つであると認識されてきたこと
③ 行政機関による合併処理浄化槽の(補助制度を含めた)積極的なPR
④ 岩手県は全国一浄化槽の設置基数が少ないこと
浄化槽は、下水道とは異なり、個々に高度な処理を行い処理水を放流します。そのため、公共用水域の水質汚染防止という観点から浄化槽を考えた場合、浄化槽一つ一つがその本来の性能を十分に発揮することが必要になります。
従前は、浄化槽の設置工事や維持管理が必ずしも適正に行われていないため、浄化槽の放流水が公共用水域の汚染の原因となり、また、悪臭の発生等周辺環境に悪影響を及ぼす例が見受けられ、ひどい浄化槽になると、排泄物そのものが処理されずに流れていったものもあったそうです。
浄化槽がその本来の性能を十分に発揮するためには、使用者の使い方はもちろんですが、施工、保守点検、清掃、法定検査の4つが法律で決められたとおり正しく行われなければなりません。また、実際に浄化槽の施工や維持管理を行う者の技術レベルも大きく関わってくると考えられます。
前に述べたように、今後、県内の浄化槽がどんどん増えていくと、当然浄化槽の知名度も上がり、県民の浄化槽に対する認識や評価がある程度固まってくると考えられます。
そのとき、「浄化槽は下水道に劣る」という評価を持たれないよう、浄化槽関係者としては、行政を含め、製造から維持管理に至るまで、浄化槽設置者の信頼を得られるような技術やシステムを確立する必要があるのではないでしょうか。
話は少々横道にそれますが、この先、浄化槽の人気が高まるとともに、設置基数がどんどん増えていくと、施工や法定検査、保守点検等が設置者の需要に追いつかないという、浄化槽関係者としては嬉しい悲鳴が聞かれるようになるかもしれません。幸い(?)、今のところそのような話は聞きませんが。
ただ、市町村や一部事務組合のし尿処理施設では、搬入される浄化槽汚泥が増えてくると、当初計画されたし尿と浄化槽汚泥の処理割合が変わり、施設の処理能力に支障を来す場合もあると考えられ、実際、一部の地方公共団体では、搬入される浄化槽汚泥をそのまま受け入れることは非常に厳しい状況にあると聞いております。
よって、市町村等の策定する生活排水処理計画においては、合併処理浄化槽の普及促進はもちろんですが、し尿処理施設において処理することが基本である浄化槽汚泥については、その発生量について十分考慮する必要があるとともに、し尿処理施設の整備計画にあっては、浄化槽汚泥専門処理方式を含め、浄化槽汚泥の増加に対応できる処理方式を採用する等の検討をする必要があります。
話が少々横道にそれましたので、軌道修正。
私の通常業務の一つに、浄化槽保守点検業者の登録事務がありますが、審査に当たって保守点検業者の皆様にお願いがあります。
それは、登録の有効期限を忘れないでくださいということです。
それと、更新の登録申請書を提出する場合は、有効期限が満了する1ヵ月から遅くても2週間前に提出されるようお願いします。
中には、有効期限が満了した後に、更新の申請書を提出される方がいますが、有効期限が過ぎてしまうと、当然無登録業者になり、業は一切できないことになりますので、登録有効期限にはくれぐれもご用心願います。
最後に、私が普段、このような浄化槽ができれば絶対売れると確信している浄化槽について紹介しましょう。
それは、『超小型合併処理浄化槽』。商品名は「スーパー・チビ」としましょうか。
スーパー・チビの大きさは、小型のバスケットボックス位。太陽電池を電源にした小型ブロアーを内蔵。充電も可能。メンテナンス殆ど不要の超高性能。処理水はそのままで十分飲用可能。用途は、海・山、トイレのない現場等での携帯用トイレ(自然を汚さない)など、どこにでも手軽に持ち運びができる優れ物。幼児の背中につければ、おむつ不要。長時間の会議もこれで安心。
このような浄化槽ができたらいいなと思いますが、いかがでしょうか。