岩手県宮古保健所
蛇口 哲夫
浄化槽の構造は、建築基準法によって規定されており、設置工事が正しく施工されれば、通常の使用で汚水は適切に処理され、放流されるものです。浄化槽の処理機能は、構造基準の告示区分ごとに放流水のBOD濃度及びBOD除去率で規定されており、BOD測定により浄化槽機能が評価されることになります。
BODは、我々の生活に最も身近な水質を評価する指標の一つであることはいうまでもありません。BODの測定は、自然浄化作用から生じたものであり、有機物が自然水域(河川、湖沼、海域等)に流入し、水中の好気性微生物によって分解される時の微生物の増殖、呼吸作用などによる溶存酸素の消費量の測定から有機物の量を推測する経験的な測定法であり、一定条件下で測定されるのはご存知のとおりです。そのため、BODとして測定されてくる物質は、有機物の他、窒素化合物で硝化菌などによって分解されるもの、水中の溶存酸素を消費する被酸化性物質(硫化物、亜硫酸塩など)も含まれます。特に、活性汚泥処理などの生物学的処理を行った排水では、硝化菌による酸素消費量もBOD値にかなり含まれることが指摘されており、本来のBODと硝化菌による酸素消費量を区別する場合もあります(JISでは、硝化作用を試薬で抑制した状態で酸素消費量を測定する)。大阪府の単独浄化槽実態調査によりますと、硝化作用を抑制しての酸素消費量はBODの2分の1程度であったと報告しております。浄化槽の放流水質や処理機能を判定する場合のいかに有機物を処理しているかという目的からいえば、硝化菌により特にBODが異常に高くなる場合は硝化作用を考慮することが望ましいかもしれません。ただ、BOD測定は、微生物に依存した経験的な測定法であり、一定の約束された条件範囲内で測定されることが必要とされるため、通常のBOD測定では、硝化作用等は特に区別してはならないこととされます。硝化作用を考慮するのは、特別の目的で本来のBODと区別する必要がある場合にあくまでも限られるわけです。
BOD測定の場合、どの程度試料を希釈するかによって測定精度が大きく影響されます。また、BOD測定結果は分析開始後5日経過しないとでないため、測定を失敗するとその間に試料も大きく変化してしまい、同じ試料で再測定することができないということがあります。それ等のため、BOD測定は、初心者でも、ある程度熟練した人でも測定値をだすことができますが、その値に対して自信を持てる人は意外と少ないのではないでしょうか。
BODは速応性に欠けることから、現場で放流水の良否をおおまかに判定するものとしては透視度が有意義といわれております。混濁している汚水がどの程度まで透明、清澄になったかが浄化槽の処理目的の一つであることからも意味あるものです。透視度が悪い場合は放流水BODも高いことが推測され、通常透視度5度未満ですと何らかの異常があると考えられ、15度以上であればまずBOD90ppm以下が期待できます。また、現在の浄化槽の性能からいくと、特に維持管理の悪いもの以外は、ほぼBOD20ppm以下、透視度20㎝以上を期待できるのではないでしょうか。
第7条検査では、BODが測定されますが、その後は通常BODは測定されていないのが現状です(保守点検で放流水質を測定している方もいますが)。しかし、浄化槽の維持管理上、処理機能、放流水質及び周辺環境に与える影響等を把握していくうえにおいては、定期的にBODを測定していくことが必要ではないでしょうか。ただ、BOD測定が管理者にとっての費用負担増となることは避けたいところでしょうし、またBODは現場で試験できるものではなく(最近は簡易のBOD計も発表されていますが)、分析機器等の検査体制の整備の充実が必要となる等、解決すべきことがあると思います。
第7条検査は、浄化槽が適正に設置され、所期の機能を発揮しうるかどうか、機能に着目した設置状況を検査するものですが、結果が「不適」ということは、浄化槽の構造基準や工事の技術上の基準に違反しているおそれがあるということです。この場合、すでに使用されていることから構造的問題の改善措置はとりにくいのが現実ではないでしょうか。型式認定された浄化槽は、基礎工事及び配管をしっかりやれば、そう問題が生じないと思うのですが。
平成2年度3月末までの第7条検査結果によると、県内で34基(検査基数の4.5%)が「不適正」ということで残念なところです。
第7条検査をどう生かすか、「不適正」をいかに無くしていくかは、建築サイドとの連携が十分になされることにつきるのではないでしょうか。建築(設計)業者、浄化槽工事業者、浄化槽設備士の方々も自分たちが水質汚濁防止、環境保全のため重要な役割を担っていることをいっそう認識して頂きたいものです。
また、浄化槽設置にあたって、設置者や管理者と最初に接するのはだいたい建築関係者でありますから、設置者等に対して浄化槽の知識、義務等をよく説明、PRしていただきたいものです。そして、これは行政にも責任がありますが、建築業者任せ、保守点検業者任せで全く浄化槽について関知しないという方がないようにしていくべきです。そのため、行政を含めての浄化槽関係者の協定体制をさらに充実させ、一般に対して浄化槽、特に合併処理浄化槽を啓発、普及させていきたいと願うものです。