より良い水環境に思う

岩手県一関保健所
谷藤長利


1.はじめに
平成3年度の公共用水域の水質測定結果が、もうじき国や県から発表される時期になりました。
 この機会に、「県内の水質の評価と県民意識」、「より良い水環境の保全・創造」や「水環境に配慮した合併処理浄化槽の普及」について、考えてみたいと思います。

2.水質の評価と県民の意識
 先頃岩手県が公表した平成3年版環境白書では、本県の公共用水域の水質を「概ね良好な状態に維持されているが、都市内の中小河川の汚濁など都市、生活型公害への対策が緊要となっている。」と評価しています。
 「環境基準」の達成状況は、生活環境項目のうちBOD或いはCODに係る環境基準の達成率で、全体として85.7%(平成元年82.7%)と全国平均の73.1%を上回る結果となっています。
 これらは、県が定める「公共用水域の水質測定計画」に基づく定点監視の結果によって、評価されるものです。
 一方、ほぼ同じ時期に公表された県政モニターを対象とした意識調査結果にみるまでもなく、これまでおこなわれている各種の調査では、身近な河川について「昔にくらべ水が汚れた」或いは「魚がいなくなった」、「ゴミが目立つようになった」などの汚れを感じている声が寄せられ、その原因として「家庭排水」、「畜産排水」、「工場、事業場排水」、「廃棄物の投棄」などがよくあげられます。さらに、最近では開発による森林の伐採など環境の変化を原因とする声も聞かれるようになりました。
 「水質は概ね良好」という県の評価と県民の感じ方には、一見ずれがあるように感じをもたれるかもしれませんが、これは言うまでもなく、それぞれの見る(測定する)ポイント(位置)の違いから来ているもので、いずれも真実であり、人々の実感だろうと思います。
 確かに、上流域での開発が進んでいる近くの河川や住宅密集地に近接した河川の水質は、周辺の保水能力の低下や流入する汚濁負荷の増加によって影響を受けているはずですし、河川の改修等で自浄能力が低下した水域もあるはずです。
 逆に、「かつての死の川に天然アユ遡上」、「ホタルが戻った」など報道に見られるように、その地域に住む人々の努力や工場、事業場の排水対策の推進によって、水質が改善された地域もあるわけです。
 地域ごとにある様々な変化が複雑に絡み合った結果として、現在県がおこなっている「公共用水域の常時監視」の地点で、全体として「良好な水質を維持している」という評価になっているわけです。

3.より良い水環境を考える
 県内の環境や河川等の水質について、特に良好な状態を保ち続けてほしいと思うことは、県民の自然な感情だと思います。
 "良い水環境を保つ"ということは、まず、地域地域が良い水環境を保ち、その結果として水域全体が長い水環境を保ち続けることだろうと思います。
 良い水環境を保全或いは創造していくためには、持続的な地域ごとの実践活動や努力の積み重ねが必要であることはもちろんですが、それとともに、人々の意識を高めその行動を支援するための各種団体、企業、行政の取り組みが求められるところです。
 人それぞれに求める"良い水環境"を集約しながら、各地域ごとにその地域における望ましい水環境を、人々の共通認識として持つことができれば、比較的早期に"良い水環境"を造りだすことも可能になると思います。
 良い水環境の因子として「豊かな水量」、「良好な水質」、「快適な水辺」があげられると思います。それを判断する材料として「利水の状況や水質の基準と合致していること」や「親水性がどうか」ということが考えられます。(図 良い水環境の因子と判断材料)
 これらをもとに地域の実情に即した対策の方向、すなわち、地域ごとの良い環境が見えてくると思います。

良い水環境の因子
・豊かな水量 ・良好な水質 ・快適な水辺




・利水と合致するか ①生活用
②産業用(農業、水産業、工業、観光)
・基準と合致するか ①水質目標(環境基準)
②排水基準や施設基準
③住民が意識している水質
・親水性はどうか? ①人、生物にとって
②水辺や周囲の景観
図 良い水環境の因子と判断材料

4.水環境に配慮した合併処理浄化槽の普及
 合併処理浄化槽の普及は、公共下水道による水洗化を望めなかった地域でも、快適な生活環境を約束してくれますし、水環境に対する負荷も軽減してくれます。
 合併処理浄化槽によって、これまでほとんど未処理のままにたれ流しされていた雑排水や、小河川や側溝に放流する水質としては不十分だった単独処理の浄化槽に比べて、格段に進歩したBODで20mg/l以下の放流水質を得ることができたのですから。しかし、より良い水環境を考えるとき、合併処理浄化槽が絶対的な切り札になるのだろうか。いや、なってほしいと思うとき、いささかの不安を感じないわけではありません。
 ・地域の水環境とマッチした浄化槽の配置になっているのだろうか?
 ・浄化槽の放流水によって、排水先の生態系に変動がないだろうか(放流水のリン、窒素、残留塩素などの影響はないだろうか)?
 ・維持管理がきちんと行われるだろうか(浄化槽がこのまま増加したら、限られた人員で、保守点検に十分な時間をとって管理できるだろうか)? …etc
 ことに、集中して(例えば10戸や20戸とまとまって)同一地区に浄化槽が設備されたときに地域の水環境、特に排水先の河川や水路等の自浄作用や受入れ可能な汚濁量に配慮した整備が考慮されなければならないと考えられます。場合によっては放流水をまとめて、十分な水量がある河川等へ排出してやる必要が生じないとも限らないわけです。
 また皆さんが十分に承知しているとおり、どんな優秀な装置でも、メンテナンスが行き届かなければ、所定の性能を発揮できないことは当然であり、この点については浄化槽の施工、保守点検、清掃、検査がこれまで以上に連携をとって進められるべきと考えます。時折、維持管理が十分になされないために、所定の性能を発揮できずにもがいている浄化槽を見るとき、残念に思うのは私だけではないと思います。
 特に設置者と直接に接する機会が最も多いはずの保守点検を業とされている皆さん方には、設置者(管理者)とのコミュニケーションを今まで以上に深めて頂きたいと思いますし、その際に、地域の水環境をひとつ頭に入れておいていただければと思います。

5.おわりに
 まだ、スタートしてそう年数が経っていないにもかかわらず、合併処理浄化槽が加速度的に普及していることには目を見張るものがあります。
 それだけに、今私が気にしていることが杞憂に終わり、合併処理浄化槽が地域の水環境や生活環境を向上させる切り札になってくれればと強く思うものです。
 ややもすると、合併処理浄化槽の普及にだけ目を奪われがちですが、地域の水環境に十分配慮した施設設備がなされ、そこに住む人々の持続的な活動に裏付けられて、その地域がより良い水環境を保ち或いは創造し、ひいては水清く緑あふれる岩手が将来とも続くことができれば私たちの子や孫達に胸を張って「ふるさと いわて」を引き継いでいけるのではと思う今日この頃です。
 私見を交えたひとりよがりの部分も多いとは思いますが、より良い水環境を共に考えるうえで、先輩諸兄のご意見等をお聞かせいただければ幸いです。