岩手県久慈保健所
藤原 繁夫
公共用水域への汚濁物質負荷の生活排水の占める割合は大きく、その処理施設としての下水道は、生活排水全部を処理するには、かなりの年月を必要とします。平成4年度は当管内で久慈市が下水道を一部供用を開始し、また管内全市町村が合併処理浄化槽の補助制度をスタートさせた年となりました。生活排水対策として合併処理浄化槽設置整備事業を推進し、合併処理浄化槽を下水道と同様に有効な手段として、より一層普及する段階を迎えています。
その際重要なことは、浄化槽の機能が存分に発揮されるよう適正な設置及び維持管理と使用する側の浄化槽への適切な理解が必要なことです。最近、保健所に補助制度に関しての合併処理浄化槽の問い合わせがありましたが、まだまだ設置基数は少ないものの生活排水対策の目玉商品とも言うべきものであり、放流水質もミスは許されない状況にあります。私も行政マンとして浄化槽に携わってきましたが、どれほど適切な指導、アドバイスができたか反省するところしきりです。
日頃の業務の中で思うことですが、浄化槽は一旦設置してしまうと処理能力に誤差があったとしても容易に変更できないものであり、伸び縮みのする浄化槽やオプションで付属機器を装備できるものとか、柔軟性のある浄化槽があったなら、「おおむね適正」あたりがかなり「適正」になるかなと、つい思ってしまいます。第7条検査や第11条検査での「不適」はもちろん「おおむね適正」についても「適正」になるよう努めているわけですが、浄化槽関係者の連絡を密にした適切な情報、指導が重要なポイントとなっています。
保守点検業者の方々からの話の中には、散気管を微妙に調整してばっ気状態を改善したとか、越流ゼキを工夫してスカム流出を完全にとめたとか、バッフルの振動が原因の沈殿物の巻き上げを改善したとか、その浄化槽の理論どおりにはいかない部分で、施行錯誤の結果、現場の知恵として問題をクリアした事例が多くあります。その研究熱心さには頭が下がる思いです。そうした非常に参考になるものは広く集めて、現場にフィードバックできれば、全体のレベルアップにつながるものと考えられます。
そうした状況を踏まえて、あえて基本的なことを言えば、放流水質等が不適正な場合、特に形式認定された浄化槽については、流入水量、流入水質を調査し、計算値と大きな違いがないかチェックし、維持管理上カバーできる内容なのか、改善のための基本方針を明確にすることが必要であります。また、浄化槽も時間帯や曜日などによって周期的に変動し、いろいろの顔を持つ場合があり、その建物の排水特性の把握が大切です。具体的な排水特性のデータの収集があれば、人槽算定等にも有効に活用できると考えます。
次に、浄化槽を使う側の責任や浄化槽への理解という面についてです。油分を多く含む場合は、極力浄化槽に流入させない方策をとるとか、家庭の浴槽の排水は一度に流さないとかの基本的指導事項はありますが、保守点検業者に任せっきりが大部分の状況と考えられます。保守点検業者の技術がすぐれて問題なければ、使用する者は、何も知らなくてもよいのか疑問が残るところです。いずれにせよ、生活排水対策のうえから一般住民の啓発は、やれるところから実施されなければならず水質を保全し環境を守る立場から家庭用小型合併浄化槽は家庭でできる環境教育の場ともなり、地域で水路や河川を汚濁から守る観点から進めていかなければならないことです。指導するリーダーの必要も考えられます。
先のことを考えれば、浄化槽等における水質浄化の目標は、一概には言えないものの、その処理水質が、きれいな河川と同程度の水質となり、リサイクルできる数値まで達することになると思われます。
過日、滋賀県の方の講演を聞く機会がありましたが、琵琶湖の水質を守る必要にせまられて、放流水BOD1ppmレベルの処理装置を家庭に設置し、その処理水をリサイクルしている内容の話がありました。家庭用のものに流量調整がついているそうですが、生物処理で1ppmとは、なんとも驚いた話であり、処理水を捨てずに使うという講演者の自信ある態度が印象的でした。
思いつくまま書きつづってしまい、内容が雑駁になってしまいました。現在の私達の置かれている状況をみれば、生活排水対策がはじまったばかりの中、その最前線で浄化槽に携わっております。その改善策の量的拡大と質的レベルアップは段階を踏みながら推進されていくわけですが、その本来の目標を忘れずに努力してまいりたいと考えています。