あすへの浄化槽

岩手県北上保健所
中村 隆


 最近の公共用水域の汚濁は「生活雑排水」が主たる原因ではないかと言われて久しいが、家庭からの排出水に対して一律に規制をすることは難しいものがある。
 生活雑排水対策として、流域下水道及び農村集落排水処理施設の整備並びに各家庭での汚濁物質の削減対策についての啓発などを進めている。
 しかし、下水道等の整備には長い時間と莫大な費用がかかるため処理区域の拡大はなかなか進まない。また処理区域となっても家の改造、排水管工事に多大な費用がかかり、接続工事をためらっている家庭も多い。
 そんな中、家庭から排出される全ての汚水を処理する小型合併浄化槽が開発された。今までは、未処理で放流されていた生活雑排水を小型合併浄化槽で処理することで環境への汚濁負荷を約10分の1に減少させることができ、各家庭でできる環境の汚染防止対策として望ましいものである。
 また、その普及に国、県及び市町村が力をいれており、県内のほとんどの市町村において、小型合併浄化槽の設置者に対して補助金を交付している。その結果、小型合併浄化槽は他の浄化槽に比べ設置基数は大きく伸びている。
 小型合併浄化槽の設置基数は、県内では平成4年度末で3,004基と平成元年末と比較すると6.4倍となっている。
 北上保健所管内においても平成元年末では、40基であったものが平成4年度末では、234基と約6.1倍になっている。逆に下水道区域の拡大により10人槽以下の単独浄化槽は、464基から411基へと約12%減少している。
 ところで、家庭用の浄化槽(5人槽から10人槽まで)についての清掃時における汲取量(全量汲取りとする)は、単独浄化槽は約1~2立方メートルであるのに対して小型合併浄化槽のは、約3~7立方メートルになっており約3倍程多量に汲み取らなければならなく、設置基数が多くなればなるほど全体の汲取量も増え、汚泥の処理が問題となるものと思われる。
 北上保健所管内で10人槽以下の浄化槽を1年に1回清掃するとした場合、平成4年度の推定の汲取量は、単独浄化槽では約670立方メートル、小型合併浄化槽では約1340立方メートル、合計約2010立方メートルとなる。
 このことは、県内の全ての市町村に対して言えることであるが、今後、単独浄化槽の設置基数が減少してもそれを上回る小型合併浄化槽の設置基数及び1基当たりの汲取量の増加から全体の汲取量は増加し、し尿処理場への浄化槽汚泥の投入量が年々増加すると思われる。
 しかし、し尿処理場の処理は、生し尿の処理を主たる目的としており、浄化槽汚泥の投入量を増加させても生し尿に対する役割である程度までしか投入することができなく、汚泥発生量の全量を処理することができなくなる恐れがある。
 ところで、平成4年度の補助金の交付対象となる国庫補助指針に適合する小型合併浄化槽は、接触ばっ気槽から嫌気ろ床槽(または沈殿分離槽)へ汚泥返送ができる型式であり、設置基数が増加しても汚泥の返送を上手に行えば汚泥の発生量を低く抑えることが可能な浄化槽であると思われる。
 今後も汚泥返送装置の設備された浄化槽が補助金の交付対象の小型合併浄化槽として採用されると思われるので、小型合併浄化槽の維持管理にあたっては、汚泥返送装置を上手に使い、汚泥の発生量を極力抑えれば、し尿処理場にとっても、たいへん好ましい処理装置である。