浄化槽について思うこと

岩手県水沢保健所衛生環境課
 技師 林 日和


 新年明けましておめでとうございます。社団法人岩手県浄化槽協会及び会員の皆様には、日頃から多大なご協力を賜り深く感謝申し上げます。
 このたびは、寄稿依頼を受けて、浄化槽について改めて考えたことを書いてみたいと思います。

1.水洗化ということ
 私の実家は長い間"中身の見える"汲取り便所でした。トイレに入ったときのきつい臭い。暗い穴の底。それでも当時はあまり不便を感じずにいました。それが簡易水洗になった時・・・。『臭わない!中が見えない!家のトイレに水が流れる!』と感動したことを覚えています。それまで住宅から切り離された空間のように感じていたトイレが、清潔な場所、住宅の一部分として身近に感じられる場所となりました。トイレが水洗化するということは生活が変わるということ。その感動を下水道のない地域にも運んでくれるのが浄化槽でした。

2.浄化槽とは
 水沢保健所への転勤とともに浄化槽担当となって2年目となりますが、就職するまでは浄化槽というものを全く知りませんでした。水洗トイレ=全て公共下水道であり、下水処理場でなければし尿の処理は出来ないもの、と思っていました。それが、住宅のすぐそばに浄化槽なるものを埋設し、汚水を溜めるだけではなく処理水を放流するなんて!初めて知ったときは驚き不安に思ったものです。
 合併処理浄化槽は、し尿だけではなく雑排水も処理できる優れものです。しかしだからこそ、家庭から出る排水全てを受け止めることになります。カビ取り用洗剤、排水口クリーナー、トイレ洗浄剤等々。生活に便利なものは沢山ありますが、浄化槽にとってはどうでしょうか。実際の設置者の方がどれだけ浄化槽の特性を知り、どれだけ気にかけて生活しているのか、心配な部分もあります。設置後の使用方法や維持管理が重要であることは分かっているものの、保健所担当者が設置者の方と接する機会はほとんどないのが実情です。

3.浄化槽担当となって
 保健所の主な業務は設置届や建築主事からの意見照会の書類審査ですが、人槽算定や配管経路の選択で考え込むことが多々あります。先日も、美容所併設住宅のシャンプー台排水をどうするかという問題に当たりました。人槽算定では住宅、店舗合わせても7人槽。提出された設置届の図面ではシャンプー台排水のみ別配管で放流することになっていました。シャンプーの泡やヘアカラー、パーマ液などがそのまま流れるのを食い止めたい気持ちはあるものの、果たして浄化槽に入れても大丈夫なのか、と悩んでしまいました。しかし、いくら図面を見て考えていても想像にしかなりません。現場を多く見ている浄化槽検査センターの検査員の方に、県内で同様のケースがないかお話を聞き、施工業者の方とも何度か相談をして、結局業者の方の申し出もあり、「とりあえず浄化槽で処理してみる。どうしても障害が出るようであれば予め埋設した別配管に切り替えて放流しよう」という結論となりました。この方法が一番良かったのかは分かりませんが、現場のプロの方々のご意見を参考に、少しでも良い方法を探していけたらと思います。
 先日、補助事業中間検査の際、雑談で土地改良区管理水路の放流許可の話になりました。その時、市町村の担当者の方が一言、「浄化槽放流水よりもラーメン屋の排水の方がずっとひどいですよ」。確かに、浄化槽設置整備補助事業で合併浄化槽を設置した家庭の上流から、油が混じったラーメンの汁が流れてきたら、元も子もありません。行政で何とかして欲しいという気持ちはとてもよく分かります。しかし、汲取りトイレ(簡易水洗含む)で設計された建物は建築基準法上問題はなく、各種営業許可を取得することも出来ます。業種にもよりますが、ほとんどの施設では排水量が少ないため水質汚濁防止法の届出対象にもなりません。汚濁負荷が高いため人槽算定が大きくなり、設置費用もかかる浄化槽を設置してもらうためには「お願い」するしかありません。私はまだ営業者の方を説得するようなケースに出会ったことはありませんが、新築・既存を問わず、営業者の方がもっと楽に、もっと自然に浄化槽設置を設置できる制度があれば、と思います。

4.おわりに
 浄化槽は設置から日常の維持管理まで、多くの人達の手を必要とします。その支えの一つとなれるよう、微力ながら取り組んでいきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。