岩手県一関保健所環境チーム
主査 蘓武 時光
はじめに
新年あけましておめでとうございます。この4月から一関市から一関保健所へ派遣されている蘓武と申します。浄化槽の普及促進及び保守点検に携わる方々のご苦労には頭の下がる思いでおります。本当にご苦労様です。そして投稿の機会をいただきありがとうございます。
一関市では 平成15年度より一関市の上下水道部下水道課で農業集落排水の普及促進と施設管理及び浄化槽の補助金交付事務を担当しておりました。
一関市では
平成14年度から下水道事業、農業集落排水事業及び浄化槽事業の事務一元化を実施しており、合併前の町村には市町村型で浄化槽を整備していたところもあり、またPFI事業についても導入すべく準備中で、汚水処理行政についてはあらゆる手法を網羅する状況となっています。
一関保健所では
浄化槽法にかかる権限移譲によって平成18年度より、その事務を一関市が取り扱うこととなりましたが、実務研修を目的 に浄化槽を担当しています。平泉町内及び藤沢町内の浄化槽設置届書の受理通知と、建築基準法に基づく意見照会にかかる回答が主務となっていますが、法定点検結果に基づく不適合浄化槽の指導、水道監視、飲用水依頼検査結果の通知と不適合項目にかかる指導及び公共用水域の採水と、水に関する業務を一通り担当しています。
この間に思うこと
私は土木系の技師ですので、水に関して携わることといえば上下水道施設建設と管理では中を流れる汚水、とりわけ水質として下水道、農業集落排水の終末処理場及び浄化槽から排出される放流水くらいでしょうか。
先日、聴講させてもらった土木学会環境工学委員会主催の「環境工学研究フォーラム」で、汚水処理について実に多くの研究がされていることを知りました。特に熱心に取り組まれていたのが、抗生物質等の難分解性物質の分解除去に関する研究でした。
浄化槽の放流水に含まれる窒素燐等による農作物への影響が取りざたされ、市街化が進む農業地域では放流先が確保できず、浄化槽の普及が進まない時期がありました。放流先となっている水路とそうでない水路の水質検査も実施したのですが、この時は影響が確認出来ませんでした。逆にこのことが農業者から不審に思われ、浄化槽設置の障害となってしまった時期もありました。この問題は、普及が進む脱窒素脱燐型浄化槽によって解決しつつありますが、今後の課題となるのは、難分解性物質の除去ではないでしょうか。
そもそも薬品は人や環境に対して何らかの作用をさせることを目的としたもので、殺虫剤などの農薬が、環境に良くない影響を与えていることは誰もが認知していることであり、多くの対策も取られています。しかし医薬品については、服用前の管理は厳重であるのに対し、服用後、人間の体を通して無制限に排出されているといった意識はないでしょう。イギリスロンドンでは、産業革命による人口集積によって環境汚染が進み、テムズ川の水質悪化がコレラ流行の原因だったことから、いっきに下水道が普及しました。その後、メス化したコイ科の魚類が見つかり、その原因が人間が排泄するホルモン系物質であることが報告されています。欧米に比べ日本の河川は急流であり、また降水量も多いことから、同様の問題が起きにくいものと考えますが、閉鎖性の高い湖沼においては、微量の抗生物質が検出されたとの報告もありました。
処理方法の高度化と汚水処理施設整備経費の経済性から、一時的な施設として取り扱われてきた浄化槽も、恒久的汚水処理施設として中心的役割を担うまでになっています。国も浄化槽の設置整備に多くの予算を割り当て、あらゆる施策を講じて浄化槽による汚水処理を推進しています。
しかし既設浄化槽の法定点検、保守点検及び清掃の定期的かつ確実な実施が行われず問題となっています。浄化槽の歴史はそう古くはないのですが、法整備が遅れ、初期の実態が十分に把握できていないのではと思います。雑居ビル等に設置された単独処理浄化槽などは、状態が非常に悪く、中にはほとんど機能していないものもあると保守点検業者から聞いたことがあります。また「法定点検をしているのに保守点検が必要なのですか。」と直接問い合わせを受けたこともあります。浄化槽からの臭気に悩まされているとの苦情に、管理者にその原因と使い方について説明しますと、初めて聞いたとの答えが返ってきたことも度々あります。
浄化槽の適正管理を確保するために、使用開始時期が最も重要な時期と考えます。使用者が汚水について勉強し、生活習慣を環境に優しいものへと変えるきっかけにもなるのがこの時期です。いろんな場面で浄化槽に携わる多くの方々がいますが、特に工事業者の方々は、浄化槽をこれから使おうとする方々に最初に接するわけですから、お客様に引き渡しをする際に使い方の最低限の説明はしてほしいものだと思います。また、行政、検査センター、保守点検業者及び工事業者が一堂に会し、使用者側から見た浄化槽の使い方を研究する機会をつくったらとも思います。
終わりに
保健所に勤務して9ヶ月を過ぎましたが、この間、実に多くのことを学ばせてもらいました。ありがとうございます。自宅も浄化槽(集中浄化槽)を使用していますが、水の使い方に気を使うようになりました。残り3ヶ月となりましたが、この経験を市民の生活環境改善と環境保全に役立てられればと思います。改めて、この機会を得られたことに感謝し、そして浄化槽の普及、保守に努力されている皆様に敬意を表し、終わりにしたいと思います。ありがとうございました。