岩手県県土整備部下水環境課
主任主査 八重樫 満
1 はじめに
東日本大震災津波では、浄化槽などの汚水処理施設において甚大な被害があり、沿岸地域では特に津波や浸水による被害が多かった。
地域住民の生活を早期に維持するため、被災浄化槽の応急修理による復旧、応急仮設住宅では地形の影響を受けにくく工期が短いなどのメリットを生かし合併処理浄化槽の設置などにより、公衆衛生の確保や公共用水域の水質保全等への対応がなされてきたところです。
2 汚水処理の継続
岩手県浄化槽検査センター(以下「検査センター」)が平成23年度に環境省からの依頼で実施した調査によると「地震被害で最も被害が多かった地区でも、浄化槽被害は分散しており、壊滅的な被害になることはなかった。」との報告があった。
浄化槽においては汚水処理機能停止のリスクが分散され、居住者のいる被災浄化槽については比較的軽微な修理などにより暫定使用あるいは早期に完全復旧し、短期間で継続的な汚水処理が可能となりました。
災害時の浄化槽被害対策については「災害時の浄化槽被害等対策マニュアル」があったが、東日本大震災津波の経験などを踏まえ、検査センターの稲村所長が委員の一人として検討に参画され、今年の3月に環境省が改訂版を公表しました。
このマニュアルでは、浄化槽管理者、検査センター、保守点検業者・清掃業者、行政など(以下「関係機関」)の役割や取組などが具体的に明記されたところですが、災害時に汚水処理施設の機能を迅速に回復させ、処理を継続するためには今まで以上に関係機関の情報共有及び連携が望まれます。
合併処理浄化槽は、他の汚水処理施設と同等の性能があるが、処理水の水質は浄化槽の使用方法や維持管理の方法などにかなり依存しています。
法定検査の結果では不適正となった浄化槽は少なくないことから、災害時だけではなく平常時においても、良好な水質を確保するためには関係機関の協力や連携が必要です。
県では平成23年2月に「いわて汚水処理ビジョン2010」(以下「汚水処理ビジョン」)を策定し、居住生活環境の改善や公共用水域の水質を保全するため、未処理の家庭雑排水量について、2009年度末で県庁0.9杯分(約7.7万m3)から2018年度末には県庁0.5杯分(約4.2万m3)に削減することを目標にしています。
3 持続的で健全な汚水処理経営
使用実績による浄化槽の耐用年数は、浄化槽本体が約30年、ブロワなどの機器設備類は7~15年と言われており、浄化槽の使用を中止しない限り、設置費用のほか法定検査、保守点検、清掃などに伴う維持管理費用が継続して発生します。
個別処理としての浄化槽の場合、維持管理費用が総事業費の3分の2程度であり集合処理に比べ負担割合が大きくなっています。
特にも、市町村設置型の場合は、使用者から使用料を徴収しているものの、当該自治体の負担する維持管理費も少なくありません。
そのため、浄化槽を整備するに当たりPFI方式の導入や一括契約などにより費用削減に取り組む自治体もあり、浄化槽業界団体等の協力のもと効率的で経済的な維持管理による汚水処理経営が求められています。
汚水処理ビジョンでは、持続可能な汚水処理経営を前提とし、設置費用、維持管理費用などのライフサイクルコストや地域住民の意向などに配慮しながら、最も地域の実情に合った整備手法を選択し汚水処理施設の普及拡大に努めることとしています。
4 おわりに
公衆衛生や公共用水域の水質保全を確保するため、災害時おいては迅速な対応により汚水処理機能を早期に回復させ、平常時においては効率的・経済的な維持管理による健全な経営に配慮しながら、持続的・継続的に汚水を処理していく必要があります。
また、汚水処理ビジョンの目標を達成させるためには、浄化槽工事業者、浄化槽保守点検業者・清掃業者や検査センターと行政との連携が重要であることか ら、今後も浄化槽関係者の皆様のご協力をお願いします。