岩手県県土整備部下水環境課
主任 佐藤 佳之
1 はじめに
公益社団法人岩手県浄化槽協会の皆様には、日頃より浄化槽の普及啓発、適正な維持管理の推進にご尽力いただき、深く感謝申し上げます。
岩手県では、「快適で安心して暮らせる社会」の実現のため、これまで県構想「いわて汚水処理ビジョン2010」に基づき、汚水処理施設の整備促進に取り組んできたところです。
今回は、国が示した「都道府県構想」に関連した直近の情勢をお伝えし、さらに今後進めることになる次期県構想の策定作業について触れ、最後に汚水処理システム全体から見た浄化槽への期待について寄稿させていただきます。
2 都道府県構想とは
都道府県構想は一言で言えば、汚水処理施設ごとの「エリア分け」、すなわち分担範囲を定めたものです。エリア分けの方法は、下水道や集落排水等の「集合処理」と、浄化槽の「個別処理」を経済比較し、これに地形や地縁性等の地域特性を考慮して定めます。実務上は集合処理と個別処理の線引き作業を行うことになり、一般的には市街地等の人口密集値で「集合処理」が、農村部や中山間部等では「個別処理(浄化槽)」が選定されます。
都道府県構想では「エリア分け」のほか、維持管理、情報公開、雨水対策等の取組を定める場合もあります。
3 岩手県の県構想「いわて汚水処理ビジョン2010」
岩手県の県構想「いわて汚水処理ビジョン2010」は平成22年度に策定しました。そのエリア分けは、計画人口ベースで下水道が71%、集落排水が11%、浄化槽が18%の分担割合となっています。一方、計画面積ベースでは下水道が11%、集落排水が4%、浄化槽が85%(※注:分母は2012年時点での可住地面積)となっており、計画区域としては浄化槽が最も広い範囲を受け持っています。県構想では、このエリア分けを前提に汚水処理施設整備等の取組を進め、水洗化人口割合を目標年次であるH30末時点で77.0%(うち、浄化槽分13.7%)まで引き上げることを目標としています。
なお、H25末時点では、県内の水洗化人口割合は68.2%(うち、浄化槽分13.6%)となり、浄化槽では着実な進捗が見られますが、下水道では計画に対し若干の遅れが見られます。下水道事業は残事業量が多く、整備完了までに長期間(数十年以上)を要する市町村もあるのが実態です。
4 国の動きと新たな都道府県構想策定マニュアルの公表
改築・更新費用の増大を背景に、新たな社会インフラの整備に対する国の予算は年々厳しくなっています。とりわけ汚水処理施設整備に関しては、浄化槽設置に関する交付金も含め、自治体の要望に対し配分される国費の割合(内示率)が顕著に低下しています。全国ではH25末時点で1,500万人が未だ汚水処理施設を利用できない状況にあり、整備事業は今後も進める必要がありますが、前述のように施設整備完了まで相当の長期間を要するケースも見られます。そこで国は有識者委員会を設置し、新たなエリア分けの考え方が議論されました。
この有識者委員会の報告を経て、国は平成26年1月に都道府県構想策定マニュアルを改訂し、農水省、国交省、環境省の3省連名で「持続的な汚水処理システム構築に向けた都道府県構想策定マニュアル」(以下『新マニュアル』と言う。)を公表し、あわせて都道府県構想の早急な見直しを要請しました。これまでのマニュアルとの大きな違いは、新たに「時間軸の観点」が盛り込まれたことで、具体的には以下の2点です。
・短期的な整備の目標として、今後10年程度を目安にして汚水処理施設を概成させること。(10年概成アクションプランの作成)
・中長期的な運営管理の目標として、持続可能な運営のため処理場の統廃合等についても検討すること。(長期的な整備・運営管理計画の作成)
つまり新マニュアル公表、構想の早期見直し要請を受け、県構想「いわて汚水処理ビジョン2010」のエリア分けと実行計画を見直しする必要が生じた、というのが現在の状況です。なお、国は「汚水処理施設の10年概成」は浄化槽も対象とのスタンスですが、我々も含めた全国の自治体の多くは浄化槽の強制的整備は不可能と考えており、国に対し意見を述べているところです。また、10年後に汚水処理施設整備に関する交付金制度が打ち切られるものではないことも確認を取っています。