「浄化槽出前講座について」

岩手県県土整備部下水環境課
技師 中村 清嵩


1 はじめに
 公益社団法人岩手県浄化槽協会の皆様には、日頃から浄化槽の普及啓発、適正な維持管理の推進に御尽力いただき、深く感謝を申し上げます。
 特にも岩手県の浄化槽法第11条に基づく定期検査の受検率が全国でも上位に位置していることは、皆様のお力によるところが大きいと感じており、浄化槽の信頼性の向上に大きく貢献していることに、重ねて感謝申し上げます。
 私にとって社会人としての初めての仕事が浄化槽行政であり、携わってから1年少々の経験ではありますが、その中でも印象深く、貴協会の御協力のもと実施しております浄化槽出前講座について寄稿させていただきます。

2 浄化槽出前講座の背景
 小学校学習指導要領が示す社会科教育では、「地域の人々の生活にとって必要な飲料水の確保や廃棄物(ごみ)又は下水の処理」について学習する旨の記載があります。このことへの取組みを小学校の先生から話を伺ったところ、飲料水についてはダムや浄水場の見学を、廃棄物についてはごみ処理施設の見学を行っているものの、下水道や浄化槽などの汚水処理施設については、学ぶ機会が少ないとのことでした。
 下水道や浄化槽などの汚水処理施設は、私たちの生活に身近で欠かせない存在であるとともに、地域の豊かな水環境に大きく関わっており、その役割や機能などを理解することは非常に重要なことですが、日頃その仕組み等を知る機会はほとんどありません。
 このようなことから、県では小学校の社会科教育への支援を通した汚水処理施設の普及啓発を図ることを目的に、平成20年度から公益社団法人下水道公社と共同で下水道出前講座を開始し、翌平成21年度からは貴協会に御協力をいただき、浄化槽出前講座を実施しています。

3 浄化槽出前講座の主な内容
 出前講座の主な内容は次のとおりです。
●パワーポイントによる講義
 水道水がどこから供給され、使用した後の汚水はどこにたどり着くのか。また、汚水がきれいになる過程で、微生物がどのような働きをするか実感しやすいように、身近な題材(地元施設の浄水場の写真、浄化センターの写真、学校で実際に使用している浄化槽の写真等)等を使用して「水の循環の大切さ」や「汚水処理施設の役割や仕組み」について説明しています。


●浄化槽模型による学習
 地下に設置され、普段見ることのない浄化槽内部の構造や汚水の処理過程を模型を使い、目で見て学ぶことにより、浄化槽をより身近に感じてもらいます。
●浄化槽から採取した微生物の観察
 微生物を顕微鏡で観察し、どのような生き物が汚水をきれいにしてくれるかを学びます。

●浄化槽の流入水、処理水の違い
 それぞれの臭いを比較し、汚水処理の重要性を実感してもらいます。

4 浄化槽出前講座の実施状況
<浄化槽出前講座の開催状況>
年度学校数受講人数
平成21年度4校59名
平成22年度4校58名
平成23年度2校54名
平成24年度4校57名
平成25年度7校119名
平成26年度11校127名
平成27年度9校95名
合計41校569名
平成28年度
※6月末時点
9校136名

 浄化槽出前講座は、平成21年から平成27年までの間、41校、569名の生徒が受講しています。平成25年度から浄化槽に生息する微生物の顕微鏡観察を実施したところ大変好評で、出前講座の申し込み数がそれ以前と比べ増加しています。また、平成26年度からは先生方の要望を受けて下水汚泥を利用した製品のサンプルも紹介しています。
 平成28年度は6月末時点で既に9校の出前講座依頼があります。

5 子供たちの感想・意見から思うこと
 出前講座を受講した子供たちは、「微生物が下水の汚れをきれいにしていると初めて知った」「家にある浄化槽はこのような仕組みになっていたのか」とメモを取りながら非常に熱心に学習していました。また、先生方も同様に感心していました。
 受講後には子供たちから感想文を頂き、水を大切に使うことや環境を守ることへの意識が高まり、汚水を適切に処理することの重要性を実感していただいたことがうかがえました。
 今後も「水の循環と汚水処理の大切さ」を子供たちに伝え、汚水処理施設の普及や水洗化人口割合の向上につながるように取り組んでいきたいと考えています。

6 最後に
 現在、農水省、国交省、環境省の三省連名による通知(平成26年1月30日付 持続的な汚水処理システム構築に向けた都道府県構想の見直しの推進について)により、市町村によっては人口減少の進行や厳しい財政事情等を考慮し、下水道区域を見直し浄化槽区域が拡大する可能性があります。これにより、今後汚水処理施設の普及における浄化槽の役割はさらに重要になると予想されます。
 浄化槽整備促進のためには今後とも貴協会及び会員の皆様との連携が重要と考えておりますので、より一層の御協力と御支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。