「浄化槽の人員算定について」

岩手県環境生活部 資源循環推進課
主任 白藤 裕久



はじめに
 公益社団法人岩手県浄化槽協会の皆様には、日頃から、浄化槽の普及啓発、適正な維持管理の推進に御尽力いただくとともに、保健所の浄化槽業務に御支援・御協力をいただき深く感謝申し上げます。
 この度は、会報「みず」への寄稿の機会をいただきありがとうございます。
 さて、岩手県では本年2月に浄化槽の処理対象人員算定の例外的取扱いを一部改正しております。浄化槽の設置に広く関係することから、この機会をお借りしてその背景と概要について御説明したいと思います。

1 背景
 岩手県では本年1月に汚水処理施設の新たな整備計画として「いわて汚水処理ビジョン2017」を策定しております。本計画では目標年度である2025年度に向けて、県内の汚水処理人口普及率を91%とすることを目標としており、その内訳として下水道等の集合処理による汚水処理普及人口を0.7万人増、浄化槽による汚水処理普及人口を3.3万人増としています。よって、今後の浄化槽の普及促進が全体の汚水処理普及人口の向上の鍵を握っていることになります。
 このように浄化槽の普及を進める理由として、戸別に設置が可能であり人口密集地域でなくとも効率的な施設整備が可能であることが挙げられます。このことは人口減少等の社会情勢の変化にも柔軟に対応できるという利点にもなっています。
 一方で、戸別設置という性質上、設置者ごとの設計、施工、使用方法及び維持管理の状況が放流水質に直結することになります。したがって、これらが適切に行われることが、浄化槽本体の機能を十分に発揮し続け、放流水質を良好に保つために必要となります。
 良好な放流水質の確保は浄化槽の普及を進めていくうえで必要な条件であり、本計画の目標達成に向けて、浄化槽の適切な設置及び維持管理等が改めて注目されています。

2 処理対象人員算定の関係法令
 浄化槽の設置が適切に行われるうえでの大きな要素として、浄化槽の大きさの決定即ち、処理対象人員の算定が挙げられます。
 その算定方法は直接的には建設省告示(昭和44年7月3日 建設省告示第3184号)の定めで日本工業規格(JIS A 3302)によることになっていますが、これは建築基準法第31条と建築基準法施行令第32条により定められた処理性能に関する浄化槽の構造上の技術的基準によるものです。さらに、この構造上の技術的基準は浄化槽法第4条第3項の定めで放流水質の技術上の基準が確保されるものとして定められなければならないとされています。つまり、処理対象人員の算定にあたっては放流水質の技術上の基準が確保されなければなりません。
 また、具体的な処理対象人員の算定の方法は、日本工業規格(JIS A 3302)の「2. 建築用途別処理対象人員算定基準」において「表」として建築物の用途ごとに示されており、例えば住宅であればその延べ床面積に応じて、130㎡以下の場合は5人槽、130㎡を超える場合は7人槽と規定されています。
 併せて、「ただし書き」として「建築物の使用状況により、類似施設の使用水量その他の資料から表が明らかに実情に沿わないと考えられる場合は、当該資料などを基にしてこの算定人員を増減することができる」とされています。なお、ただし書きを適用する場合でも、放流水質の技術上の基準が遵守される必要があります。

3 ただし書きについての岩手県での取扱い
 岩手県では、住宅に設置される浄化槽について平成16年度にただし書きの取扱いを定めており、延べ床面積が130㎡を超える場合でも5人槽の設置を可能としてきました。その条件については、浄化槽法に基づく水質検査結果などから処理状況を踏まえて、放流水質の技術上の基準が遵守できるものとして設定しています。
 なお、平成28年度の全国調査では10府県において、岩手県と同様に通知等により運用方法を定めたうえでただし書きを運用しています。

4 今回の改正概要
 平成16年度に取扱いを定めてから10年以上が経過しており、浄化槽の性能向上も期待されたことから、より現実に即した適切な浄化槽の設置に資するため、ただし書き適用条件の再確認と整理を行い、本年2月に取扱いを改正しています。
改正後の概要は下記(1)から(5)までのとおりですが、改正部分は、(2)の放流水質全窒素10mg/L以下の能力を有する高度処理型浄化槽(以下、T-N10型という。)の条件と(3)の居住人員に関する条件の2箇所です。

(1)建物が存在し現在居住していること。
(2)建物が水洗化済みの場合は、使用水量600L/日未満であること。ただし、T-N10型は1000L/日未満であること。
   建物が未水洗化の場合は、使用水量450L/日未満であること。ただし、T-N10型は750L/日未満であること。
(3)居住人員が5人以下であること。
(4)自家用水道の併用がないこと。
(5)既存浄化槽がある場合は維持管理が良好であること。

 条件(2)について、一般的に浄化槽の維持管理は、浄化槽の使用人員が増えるほど難しくなる傾向があります。改正前では、浄化槽法に基づく水質検査結果から通常の使用方法により放流水質基準が遵守されると考えられた居住人員3人以下に対応する標準的な使用水量として、「使用水量600L/日未満」と定められていました。
今回の検討に当たっては、平成16年度と同様に全浄化槽を対象として浄化槽法に基づく水質検査結果と居住人員の関係を調査しています。さらに以前は設置事例がほとんどなかったT-N10型についても抽出して調査しています。なお、集計期間は過去5年分としました。その結果、浄化槽全体では以前と同様の傾向でしたが、T-N10型では居住人員が5人でも通常の使用方法により放流水質の技術上の基準が遵守されると考えられました。
 今回の改正では、これらのことからT-N10型については居住人員3人以下の条件を除外しています。
 条件(3)については、住宅における浄化槽の処理対象人員の算定においては、1人当たりの汚水量が水洗化済みの場合に200L/日であると仮定していることを踏まえて、改正前の使用水量の規定「使用水量600L/日未満」と居住人員の規定「居住人員3人以下」を整理したものです。汚水処理状況を踏まえて居住人員3人相当の水量を基準としており、これまでの扱いと実質的な変更はありません。

5 おわりに
 以上が今回の改正の背景と概要ですが、実情に沿った適切な浄化槽の設置が行われることで適切な維持管理が行われ、いわて汚水処理ビジョン2017の目標達成に向けて、より効率的な浄化槽設置が進むことを期待するところです。
 今回の改正に当たっては、水質検査結果の提供と解析について貴協会の皆様に多大なお力添えをいただいており、改めて感謝申し上げます。浄化槽の適正な維持管理の確保のために、今後とも貴協会及び会員の皆様の御支援と御協力をいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。