「保健所の担当者として思うこと」

宮古保健所 環境衛生課
技師  伊藤 央貴



1 はじめに
 公益社団法人岩手県浄化槽協会の皆様には、日頃から多大な御協力を賜り、厚く御礼申し上げます。そして、この度は会報「みず」に寄稿する機会をいただきありがとうございます。
 過去の会報一覧を拝見しましたところ、これまでお世話になった先輩方の寄稿がずらりと並んでいて驚いております。私もこれまでの体験を振り返りながら、保健所担当者としての浄化槽業務に対する思いを書かせていただきます。

2 浄化槽担当者になって
 私は宮古保健所に異動したタイミングで初めて浄化槽担当者になりましたので、今年度がまだ2年目です。浄化槽という言葉だけは聞いたことがありましたが、浄化槽のある建物で生活したことはありませんでしたので、実際のところ、浄化槽の機能と言われてもあまりピンときませんでした。勉強する中で「下水道が整備されていない地域では、浄化槽でし尿及び生活雑排水を処理していること」「下水道も浄化槽もない家庭では、し尿は汲取りし、生活雑排水は未処理のまま放流していること」を初めて知りました。そして、実家が汲取り便所でしたので、風呂や台所で使用した水を近くの側溝に流していたことにようやく気が付きました。私が子供のころに絵具や習字道具を洗った色のついた水も、そのまま側溝に流れていたようですね。法律上は問題ないことは分かっているのですが、浄化槽担当者としては少し後ろめたいものを感じてしまいました。

3 地下浸透事前協議について
 さて、浄化槽担当者の業務の中心は建築確認及び設置届の書類審査です。毎日のように何かしら書類が郵送されますので、数日出張すると机の上が浄化槽の書類で占領されてしまいます。それはさておき、私が書類審査をしていて感じたこととしましては、宮古保健所管内では他管内と比較して地下浸透事前協議の申請が多いことでしょうか。
 御存知のとおり、浄化槽放流水は側溝等の公共用水域に放流することを原則としておりますが、設置場所等の問題で放流先が確保できない場合は、浸透桝等を設置して放流水を地下浸透させることができます。そして、地下浸透させる場合は保健所との事前協議が必要となりますが、本当に放流先を確保することができないのか判断するのがいつも悩まされるところです。「近くの側溝には放流できないのですか?」→「農業用水のための側溝なので許可が下りません」、「数十メートル先にある側溝まで配管を延ばすことはできませんか?」→「他人の土地を通らなければならず、土地所有者の了承が得られません」のように業者とやり取りして状況を確認します。保健所としましては、環境衛生上の観点からできる限り地下浸透は認めたくないところですが、代替案を示しても地下浸透以外の上手い方法が見つからない場合は許可を出してきました。代替案を考えるのも私の知識では限界がありますので、浄化槽検査センターの皆様に助言を求めることがあるかもしれません。
 ちなみに、宮古保健所管内のある地区では、放流先が少ないため、歴史的に地下浸透を多く認めてきました。県内業者はその背景について認識があるため、充分に検討したうえで申請していただいているのが大半ですが、県外業者の場合はなかなか上手く行きません。今年度の事例ですが、郵送されてきた浄化槽票の放流先欄にさりげなく「浸透桝」と記載されてあり、確認したところ、そもそも岩手県では地下浸透事前協議が必要であることを知らなかったようなのです。結局、建築確認申請を一度取下げてもらい、事前協議書を作成してもらいましたが、浸透試験を行う業者の手配や現地調査で数週間を費やしてしまいました。相手方に負担をかけないためにも、地下浸透事前協議の存在を周知する必要性を感じているところです。

4 法定検査の受検促進について
 話は変わりますが、私の職場では、お互いの課の業務等を紹介し合う研修を年に何度か開催しています。昨年度は私が研修担当でしたので、浄化槽業務について説明したところ、参加者から「実家に浄化槽があるのですが、年に何回か点検しているのに、さらに水質検査も必要なのでしょうか?」と質問されたのが記憶に残っています。そのときは、浄化槽は定期的な保守点検に加えて、法定検査として毎年1回は水質検査も必要であることを簡単に説明しましたが、一般の方には区別が難しいようです。確かに、業者が浄化槽の蓋を開けて作業するという点では、保守点検も法定検査も似たような光景かもしれませんね。
 また、法定検査の申込みがされていない設置者に対して、保健所から受検を催促しておりますが、中には「あまり使用していないから検査はしない」とか「その家には普段住んでいないので葉書を送られても気付かなかった」などと返されたことがありました。浄化槽を設置したときに、検査が必要な事も記載した維持管理通知書を送付しているのですが、なかなか伝わっていないようです。私が対応したときは受検について納得していただくことができましたが、浄化槽は設置したら終わりではなく、設置者、保守点検・清掃業者、浄化槽検査センター及び保健所が連携することで維持管理していることを設置者に認識していただきたいところです。

5 環境教育のテーマとして
 県土整備部下水環境課が小学生を対象に浄化槽出前講座を開催しておりますが、保健所でも、川の水生生物を調査しながら水環境について講義するイベントがあります。「川の生物を守る」とか「川にゴミを捨てない」ことも環境教育として大切ですが、縁あって浄化槽担当者になりましたので、子供たちが生活雑排水について考える機会にしてもらいたいと考えております。特に汲取り便所を設置している家庭では、下水道や浄化槽を設置している家庭と比較して、毎日の生活が環境に与える影響が大きいことは事実です。水は流してしまえば見えなくなりますが、余分な油を拭き取ってから食器を洗ったり、排水口ネットで固形物を流さない配慮について説明してきましたので、イベントに参加した子供たちが各家庭で実践してくれることに期待しています。浄化槽を通じて、子供たちが生活雑排水や水環境に目を向けるようになってくれれば、環境職員として非常に嬉しいことです。

6 まとめ
 最後に、浄化槽は自然界における「川」と同様の役割であると聞いたことがあります。言われてみれば、固形物を濾過したり、微生物によって浄化しているので、機能としては似ているかもしれません。環境保全に貢献したいという思いから浄化槽という人工の川が開発され、現代に至るまで改良を重ねて普及してきたのですね。
 私は環境部署の所属ですので、浄化槽以外にも、廃棄物、鳥獣・自然保護、公害等の様々な業務を担当する機会があります。そして、各業務の内容は大分違いますけれども、水を守ることはあらゆる環境業務に通じる仕事であると考えています。これからも協会の皆様と共に、水をはじめ環境保全業務に努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いします。