検査員のつぶやき


 協会設立50周年の記念すべき回に、検査員のつぶやきを担当します松坂です。
 50周年にまつわる話題で書いてくれと頼まれ、少々困惑気味でネタを探しておりましたところ、なんと今から50年前の1969年は「アポロ計画」が有人月面着陸を成功させた年でありました。
 今回はこれでいこうと思いましたが、ただ概要をつぶやいてもつまらないので人間が宇宙に行くとどのような影響を受けるのかアポロ計画もちょこっと絡めてつぶやきたいと思います。
 ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」運営企業の社長である前澤友作氏が月旅行計画を発表するなど、近い将来、一般人でも気軽に宇宙へ行ける時代が近づいてきました。
 そんな誰もが一度は憧れる(?)宇宙旅行ですが、実は人間が宇宙に行くということはかなりのリスクを孕んでいます。その中の一つが「宇宙放射線」です。地球は宇宙放射線から守られた惑星です。約47億年前に誕生してから数十億年掛けて、地表から数十km上空までに大気を形成しました。
 この地球上の大気が地球に侵入する宇宙放射線を遮へいしています。この遮へい能力は、鉛に換算すると90cm厚の壁、水に換算すると10m厚の壁に相当するそうです。
 地球は、この大気によって私たちが暮らす地表に降り注ぐまでに宇宙放射線を1/100以下に減少させています。しかし、宇宙では船壁や遮へい材によってある程度は遮ることができますが、宇宙滞在中の宇宙飛行士は、宇宙放射線による被ばくをすべて避けることはできません。
 宇宙放射線の強さは常に一定ではなく、太陽の活動状態の変化に伴い絶えず変化し太陽の表面では時折、太陽フレアと呼ばれる爆発現象などが起き、その際大量の太陽放射線が放出されることも知られており、宇宙飛行士の健康管理上の大きな課題のひとつとなっているそうです。
 地上で我々が日常生活を送る中での放射線による被ばく線量は、1年間で約2.4ミリシーベルトと言われています。
 一方、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の宇宙飛行士の被ばく線量は、1日当たり0.5~1ミリシーベルト程度となります。このため、宇宙飛行士の1日当たりの被ばく線量は、地上での約半年分に相当することになります。宇宙由来の放射線が将来の長期宇宙滞在計画にとって問題となりうることはすでに知られており、米航空宇宙局(NASA)も「かなりの危険」があると述べています。(さらに長い火星ミッションの場合、寿命は平均より15~24年短くなると推定するという研究も発表されているそう)実際、アポロ計画に参加した宇宙飛行士たちの死因には、循環器系疾患が多いことがわかっています。
 この疾患が死因となった割合は、「宇宙に行かなかった宇宙飛行士」や「低地球軌道を飛行した経験しかない宇宙飛行士」と比べて4〜5倍高かったらしいです。
 放射線の課題について、NASAやJAXAなどが対策を研究していて、例えば宇宙船や宇宙服の構造や機能を宇宙線を通しにくく強化したものにする、内服薬などで放射線の悪影響を抑える、 また、SF映画のような話ですがサイボーグやアンドロイドに宇宙開発をさせる、といった案もあるらしいです。
 いずれにしても、この被爆問題が有るおかげで太陽系外の惑星に行ったり、長期滞在型の宇宙旅行はあまり現実的ではないみたいです。(前澤社長は、1週間ほどで月を周回する超短期旅行)
 以上、協会設立50周年とはかけ離れた話題となってしまいましたが、宇宙放射線にはくれぐれも気をつけましょうというお話でした。

 

主任検査員 松坂 悠葵